CAINES Journal №2(2021.07)ではロボセン開発のきっかけと歩み、養殖場への適用に向けた取り組みについて紹介させていただきました。本稿では、その続編としてロボセン開発の進展とその後の取り組みについて紹介します。
1.付帯装備の高度化
2017年からスタートした実海域試験で抽出された課題を一つ一つ解決しながら自動航行、定点保持、自動水質環境計測といったコア技術が概ね確立したロボセンですが、養殖場への適用という面においては取扱性や安全性で十分な装備を備えていませんでした。そこで、2020年に採択された経済産業省の補助事業「戦略的基盤技術高度化支援事業(以下、サポイン事業)」では、新型モデル「RS-02型」(図1)の製作に加えて、ロボセン付帯装備の高度化に焦点を当てた開発テーマを掲げ、2020年8月から2023年3月までの3年間で段階的に各テーマの開発目標を設定し、171日間(年平均57日間)の実海域試験でロボセンへの実装と装置性能の検証を行いました。
以下、開発テーマを抜粋しその概要を記します。
1.1通信アプリケーション
付帯装備高度化の要となるのが通信アプリケーションの開発です。完全無人化で自動航行するためには、遠隔からの操作指令や航行状況を監視するための手段が必要となります。ロボセンではモバイル回線を使用した通信アプリケーションを開発しました(図2 A・C-1)。
加えて、Bluetooth通信仕様にカスタマイズした水質計測器(無線式RINKO-Profiler)とRaspberry PiとのBluetooth通信によりセンサーの電源ON/OFF司令と水質データの回収を行い、回収された水質データをLTE通信でクラウドにアップロードしてアプリケーション上でリアルタイムに水質環境をモニタリングすることが可能になりました(図2 A・B)。
1.2障害物回避システム
自動航行中における他船や岸壁等の障害物を回避する手段として、レーザー検知器「LiDAR」(以下、LiDAR)を採用しています(図2 C-2)。
障害物回避システムは、自動航行中の航路上にLiDARが障害物を検知した際、障害物回避プログラムが回避航路を生成、ロボセンは直ちに回避航行を行います。回避旋回後、ロボセンは再び目標ポイントに向けた針路を取りますが、所定の範囲内に障害物を検知している間は回避航行と針路補正を繰り返します。(図3)。
また、障害物を回避する方法としては、回避航行のほか回頭機構を応用した急停止なども可能になっています。
1.3深浅測量システム
ロボセンによる自動水質計測では、計測ポイント到達後に昇降装置に搭載する水質計測器を所定深度まで降下し、計測終了後、水質計測器を気中まで巻き上げてから次の計測ポイントまで移動します。
ここで重要となるのが計測ポイントでの水深の把握です。従前まではロボセンによる自動水質計測を実施する前に伝馬船で水深を調査する必要がありました。広範囲に多数のポイントの自動計測を行えることがロボセンの特長ですので、その多数のポイントについて人が事前調査を行うことは多大な労力となり、養殖場に適用していく上で足かせとなる部分でした。また、干満差が大きい海域においては事前に調査した水深と大きく異なる場合があるため、潮汐のタイミングを考慮してロボセンを出港させなければならないという問題もありました。
そこで、4隻のうち1隻の船底部に音響測深機を埋め込み、得られた測深情報を自動計測プログラムに組み込む深浅測量システムを開発しました(図2 D)。深浅測量システムでは、ロボセンが自動航行で計測ポイントに到着し定点保持姿勢をとったあと、測深を開始、測深で得られた水深から任意に設定する海底直上深度を差し引き、水質計測器の降下深度が決定します。
これにより、計測ポイント直下の水深をリアルタイムに把握できるため、複雑に起伏する海底においても鉛直方向の水質データを取りこぼすこと無く取得でき、岩礁や沈降物との接触トラブルを回避することも可能になりました。
2.養殖場への適用
サポイン事業の実海域試験は、石川県水産総合センター様、散布漁協協同組合様のご協力のもと、石川県七尾湾(カキ養殖場)、北海道厚岸郡浜中町火散布沼(ウニ養殖場)で三年間に亘って実施させて頂きました。
試験では、サポイン事業の開発テーマとなっている付帯装備の試験と並行して養殖場内の水質環境データを取得する自動水質計測試験を実施し、ロボセンを養殖場に適用させていく上での様々な課題を抽出し、昇降装置や回頭機構をはじめとする各装置の改良を積み重ね、自動水質観測船としての精度を高めることができました。
養殖場への適用を図る上で機械性能の向上はもちろんですが、法規制への適用についても明確にしておかなければなりません。国土交通省が公表している「遠隔操縦小型船舶に関する安全ガイドライン」(以下、ガイドライン)では、総トン数20t未満かつ無線通信による遠隔操縦される船舶が「遠隔操縦小型船舶」に該当するとされており、総トン数0.1tでモバイル通信により遠隔操作できるロボセンはここに当てはまります。
その他、主要関係法令については抜粋して(図4)に記しますが、ロボセンの仕様(サイズ・搭載装備)では、船舶登録および検査は不要であり、運行マニュアルの届出や承認は不要であり、各種法令に規制されることなく養殖場で運用することが可能となります。
3.ロボセンでの自動計測と定点観測ブイ
地球温暖化による海水温が上昇する海洋環境下において今や水産養殖の現場では水質環境のモニタリングは欠かせないものとなっています。近年はIoT技術の発達により、以前までは人が労力をかけて行っていた計測作業に代わって定点観測ブイの導入が進み、ブイに設置したセンサーの水深付近について時系列での水質情報をリアルタイムに把握できるようになってきています。
一方、ロボセンは自動で広範囲を移動し、計測ポイントでは定点を保持して水深0.1mごとのデータを計測することができるため、水平方向、鉛直方向ともに広範囲かつ高密度に高精度な水質情報をリアルタイムにモニタリングできます(図5)。
定点観測ブイとロボセンのコラボレーションにより点の情報を線の情報として水産養殖の現場で役立っていくものと期待しています。
4.おわりに
以上、ロボセンの高度化した付帯装備の概要と養殖場への適用について紹介しました。
付帯装備が高度化したことにより完全無人化で自動計測できる仕様になりましたが、各海域における制約や条件はそれぞれであり、十分に配慮した運用や展開を図っていかなければならず、地元との協調は不可欠であることに変わりありません。
それらを踏まえた上で、今後はたくさんの海域で養殖漁業の持続可能な成長に貢献できるよう、さらに取扱性が良く安全性が高い自動水質観測船として成長し続けていきたいと考えています。
最後に、本稿の内容は、「経済産業省 戦略的基盤技術高度化支援事業 JPJ005698」による成果の一部を紹介したことを付記します。