はじめに
令和2年5月、ロボセンの付帯装備の高度化とAI水質予報技術の確立を目指す事業が戦略的基盤技術高度化支援事業(通称:サポイン)に採択されました。本稿では筆者等によるこの事業の中で行われる取り組みについて述べてみたいと思います。
以下、本事業の概要となります。
海面・内水面養殖業において水質予報が強く求められています。ロボセンの付帯装備の高度化技術を開発し、ここで得た水質ビッグデータにより超高分解能水質シミュレーションを高精度化します。さらにAI技術を導入し養殖場の水質予報システムを開発します。付帯設備が高度化したロボセンによる水質ビッグデータと市販PCで実行可能な水質予報、この両者を開発することにより養殖漁業の持続可能な成長に貢献していきます。図1に本事業のポスターを示します。
本サポイン事業における研究開発目的
既に著者等はロボセンや超高分解能水質シミュレーションの基本的な技術を構築してきました。(文献(1)、(2)に詳細がありますので本稿では割愛します。)表1と表2に従来技術と本事業で構築される新たな技術を纏めます。
本サポイン事業における研究開発目的
既に著者等はロボセンや超高分解能水質シミュレーションの基本的な技術を構築してきました。(文献(1)、(2)に詳細がありますので本稿では割愛します。)表1と表2に従来技術と本事業で構築される新たな技術を纏めます。
本サポイン事業の研究開発の具体的内容
現在のロボセンは自動で航行、自動で計測するといった基本的な動作については可能になっています。しかし、将来的にこのロボセンが広く活用されるためには、1人でも容易な操作が望まれます。本事業ではこの1人でも容易な操作が可能という点に焦点を当て、ロボセンの付帯装備高度化の研究開発が行われていきます。具体的には(a) モニタリング情報データ通信モジュールおよびアプリケーションの研究開発、(b) 障害物回避・夜間航法の研究開発、(c) 自動着岸法の研究開発、 (d) 自動アンカリング装置(緊急時対策)の研究開発、(e)深浅測量技術と連携した自動計測・自動航行システムの研究開発が行われます。
紙面の都合で(a)について説明をしたいと思います。2020年3月時点のロボセンは目視による状況監視しかできません。そこで、陸上基地局(職場のPCやスマホやタブレット)からのモニタリングが出来るよう、ロボセンの各種データを陸上のPC等に送る陸上モニタリングモジュールを新たに開発します。送信データはロボセン位置データ(GPSにより取得)、搭載webカメラデータ、電力消費量、計測状況等としています。(図2)
また、PCやスマホ等の端末からロボセンの操縦指令等ができるようにロボセン指令・モニタリング統合アプリを開発します。計測場所、計測時間、計測深度を指定し自動操縦することを指令出来るようにします。端末からカメラデータを見ながら遠隔操船できるようにも研究開発を進めます。(図3)
次の本事業の大きな柱であるAIによる水質予報技術の開発について説明します。超高分解能水質シミュレーションについては既に中田等により進められています(文献(2))。本事業では、ロボセンにより取得された現場データや養殖場の定点ブイデータとの同化処理により水質シミュレーションの精度を飛躍的に向上させていきます。
超高分解能水質シミュレーションは、ロボセンデータ等との同化処理を行うことで高精度に水質を予測することが可能となりますが、計算にはハイスペックなスーパーコンピューター等が必要であり、川下ユーザーでは取り扱うことができません。そこで、スーパーコンピューター等を要しない市販PCでも実行可能なAIによる水質予測手法を本事業では開発します。
AIによる本水質予測システムは、機械学習を用いて各養殖箇所での水温、塩分の経時変化を予測するものです。機械学習のための学習データは大量にあるほど予測の精度も大幅に向上するため、学習データとして超高分解能水質シミュレーションの結果を用います。超高分解能水質シミュレーションのビッグデータから、様々な気象・海象条件パターンによる養殖場災害可能性(海水低塩分化等)を機械学習などのAIを用いてカテゴリー化することで市販PCでも予測計算が可能なシステムを構築します。
本研究開発で、超高分解能水質シミュレーションのビックデータをAI解析の学習データに活用することで、養殖箇所のピンポイントでの水質の時系列を再現し、定点ブイデータとの比較により精度誤差を水温±1.5℃、塩分±5以内を達成するつもりです。
最後になりますが養殖場ごとのきめ細かい水質予報の確立を目指します。開発されたAIによる水質予測システムに、①ロボセンより得られた水温や塩分の水質データに空間補間を加え、さらに、②降水量等の気象データを入力条件とすることで、養殖場ごとの数日先の水温や塩分の変動を予報する技術を確立します。
養殖魚介にとって相応しくない水質予報が出た場合の養殖筏退避等の作業時間を考慮し、3日先までの水質の変動を予報します。また、養殖魚介が斃死する水質条件に達するかの判定により3段階での予報(注意レベル、警戒レベル、特別警戒レベル)を行えるようにします。
参考文献
1)二瓶泰範:養殖場の自動化・機械化・自動 化に向けたロボセンの研究開発、CAINES Journal、No.1、2020、pp. 29-30
2)中田聡史:養殖海洋環境の予測と観測の高度化、CAINES Journal、No.1、2020、pp.11-12