釧路工業技術センターの地域に根差した取組みの紹介

公益財団法人 釧路根室圏産業技術振興センター 原田隆行

図1 釧路工業技術センター

釧路工業技術センターについて

 釧路工業技術センターは、釧路根室圏の企業の技術力向上を阿るために、技術相談、技 術開発、情報の提供を行い地域産業の発展に寄与することを目的として設立されました。会議室、金属や木材等を加工する各種の加工機械や検査分析装置が整備され貸出しや依頼分析を行っております。(図 1)
 北海道は広く、地方都市は点在しており、各 圏域の自治体等が同様な施設を独自に設置して、各地域の企業をサポ トしています。当 センターの守備範囲は、東は知床自然遺産の羅臼、根室、西は釧路市の飛び地で合併した音別町までの釧路根室圏の 2 市 1 0 町 1村 となっております。当地域は漁業水産業、酪農業、林業と 次産業が盛んな地域となっており、技術柑談件数の内訳をみると関連産業の相談件数が多く見られます。(図 2)

図2 2020年度技術相談件数(産業別)

釧路の水産と衛生管理・鮮度保持技術について

 図3は釧路管内の魚種別水揚げ量の変遷を示したものです。最も水揚げ量が多かったのが、1987年の160万トンほどで、2016年で は11万トン、実に10分の1以下に減少しました。一方、水揚げ高は1987年でおよそ700億円、2016年でおよそ100億円となり、7分の1 程度への減少に留まりました。魚種構成の違い等の影轡も大きくありますが、衛生管理、鮮度向上等魚の取り扱いも向上し、漁価の平均単価が2倍以上に上がりました。当地ではこのような環境からこれを支える衛生管理、鮮度保持技術が育まれてきました。
 当センターではこの衛生管理・鮮度保持技術の研究開発、販路拡大のサポートを行っており、その取り組みについて紹介致します。

釧路の衛生管理・鮮度保持技術について

  •  釧路市内の企業の保有する3つの衛生管理、鮮度保持技術を紹介します。
    海水を低コスト・短時間で殺菌処理する 「海水電解殺菌装置」((有)エステイテクノス社)(図4)
  • 窒素ガスを封入した水・氷の製造装置「窒素水・氷製造装置」(図5-1)と魚層を冷却する「魚艙冷却装置」(図5-2)((株)昭和冷凍プラント社)
  • ミクロ粒子氷を海水から造る装置「シルクアイスシステム海氷」((株)ニッコー社)(図 6)

釧路根室地域鮮度保持技術開発拠点プロジェクトについて

 このプロジェクトは、当センターが事務局を務め、釧路市水産加工振興センター、道総研釧路水産試験場、釧路高専、道総研工業試験 場、産総研と連携して、3社を中心に各社の技 術開発、販路開拓等のサポートを行うもので す。実施内容として①地域内外への釧路の鮮度保持技術のPR 活動と体制づくり、②鮮度保持技術の技術開発等の支援と体制づくり、③導入を検討するユーザー目線に立った技術評価の実施、④企業等の広報 PR資料に活用できる客観的データの公開、整備、⑤他地域の鮮度保持技術に係る活動の情報収集活動、⑥水産業界、水産関連機械業界の発展、釧路の発展に寄与することを目的に活動しています。
 具体的な活動としては、鮮度保持技術の導入を図ることを目的に、水産関連ユーザーを対象とした技術セミナーを開催、各社でその技術や機械装置に触れることができる体験ショールームを開設、導人効果を簡易的に計測できる装置を設備し、実証実験を行う等企業の技術開発、販路開拓、PR活動をサポートしています。

図3 釧路管内の魚種別水揚げ星の変遷(資料:北海道水産現勢)

JICA草の根技術協力事業(地域経済活性化特別枠)「ベトナム・ダナン市における水産物バリューチェーンモデル構築プロジェクト」について

プロジェクトの目的と背景

 この事業は、釧路総合振興局と釧路市が申請し採択され、釧路商工会議所が実施団体として釧路の企業が保有する衛生管理、鮮度保持技術を核にオ ル釧路で取り組んでいます。当センターでは、地域企業と共に、同国の現状を把握し、課題解決のため、各社保有技 術を現地へ導入、適用させ、実際の運用までのサポ トを行いました。また、地域企業の海外への新たな販路開拓のきっかけとすることも目的としています。
 取り組みの背景として、ベトナムの水産資源は世界有数であり世界が注目しています。ベトナム政府が目指す漁業者の所得向上には、この資源を無駄にすることなく、付加価値を向 上させる必要があり、その対応策として衛生管 理、鮮度保持技術の導入は有力な手段のひとつと言えます。近年、政府が水産関連で造船、搭載機器等への助成事業を展開し始める等、同国内でも水産物の高付加価値化に関心が 高まっていることが伺えます。
 現地へ導入した機器のうち、海水電解殺菌装置(エスティテクノス社製)はダナン市で最 大の漁港、市場であるトクアン漁港(図 7) に設置され、魚船冷却装置(昭和冷凍プラント社製)及びシルクアイスシステム海氷(ニッコー 社製)はそれぞれ別の漁船に搭載して運用しています。 

試験運用で得られた効果と今後の取り組み

  • 海水電解殺菌装置(漁港の話):港、市場は、清潔で臭いもなく、衛生環境が向上し利用者に安心感を与えることができました。無料の湾内海水を利用したことで、年間水道料約60万円を削減できました。導入効果が評価され、漁港のインフラ整備、拡大プロジェクトにより、電解水の利用用途及びエリアが拡大される予定です。
  • 魚艙冷却装置(船主の話):漁獲した魚の約 15%を魚舶冷却装置付きの魚船で保管したところ、魚の鮮度が向上し、評価を上げることができました。稼働するための燃料費が増加するものの、冷却用氷の費用が削減でき、年間約20万円の収入が増加しました。
  • シルクアイスシステム海氷(船主の話):シルクアイスシステム海氷を使って冷却した魚は、通常の氷を使った魚に対して鮮度が向上したことを漁業者、関係者が実感、確認しました。それと並行して、簡易鮮度計の数値からも、明 らかに鮮度が向上したことが確認できました。
  • 水産支局の取組み:今回の機材導入により、従来より鮮度の高い魚を水揚げできましたが、新たな課題として、現状の市場では、より高い領域の鮮度の品質が価格に反映されないことが分かりました。水産支局ではこの状況を把握し、本事業で譲渡した簡易鮮度計を活用して、新たな指標づくりによる鮮度の価値の見える化の研究を行っており、より高鮮度な領域の魚の価値を評価できる体制づくりに取り組んでいます。

 今後もJ I C Aの支援を受け「水産都市ダナンをけん引する人材育成プロジェクト」をテーマとした取り組みを継続できることとなりました。水産物の「価値」を把握できる人材の育成及び水産機械関連産業の強化を目指し、高鮮度魚の価値を浸透させ、漁業者の所得向上へ繋げ、衛生管理・鮮度保持技術の導入を促進できればと考えています。また、将来的に販路拡大を目指した現地パートナーとの繋がりを目指した取組みも視野に参加企業のサポートを継続していく予定です。

まとめ

  衛生管理、鮮度保持技術に関する取り組みについて紹介しました。前浜の漁模様が不安定なこともあり、地域の水産業は一部先行きが不透明な状況となっております。そこで新たな販路を求め、海外も視野に入れた取り組みは継続事業となり、更なる成果へ繋げるべくサポートを推進していきます。また、加工原料の安定供給の観点から魚の養殖に当地域も関 心が高まっており、引き続き、CAINESにて情報取集、地域での課題の発掘に努めて参りたいと思います。


参考文献
図 3) 烏澤雅:釧路における漁業の変遷、北水 試だより63、2004

図7 ベトナム・トクアン漁港市場 売買の様子

図4 海水電解殺菌装置

図5-1 窒素水・氷製造装置

図5-2 魚艙冷却装置

図6 シルクアイスシステム海氷