研究目的とその内容
養殖場では自動給餌機の導入が進んできています。自動給餌機は人が餌やりをする必要はありませんが給餌機への餌補給は大変な重労働です。筆者等は、あらゆる方向へ航行を可能にしたロボット漁船を実現し、給餌の完全自動化を目指しています1)。本記事では自動給餌機に餌補給が可能なロボット漁船実機の主寸法や実現可能な主機構成を述べます。また、新しいロボット漁船が自動で航行し、目標点に着岸が可能か否か、1/7程度の縮尺模型を製作し基本コンセプトを検証します。
研究開発背景
水産分野では、養殖の残餌が課題です。従来の自動給餌機はタイマー式であり、自動的に給餌を行えます。しかし、これだと魚が食べなくても餌を供給して残餌が生じ、養殖海域が富栄養化し赤潮等の問題にも繋がります。その為、人工知能を用いた新しい給餌が構築されつつあります。魚の行動をモニタリングし、餌やりのタイミングを判断する仕組みです。
そして、次の大きな課題は養殖事業者の労働軽減となります。自動給餌機は餌やりの労働軽減に一定の役割を果たしますが、30個程の生け簀を保有する養殖事業者が一つの給餌機約300kg程度の補給を週に3回程度行っています。つまり毎回9tonの補給を人力で行っているのです。
従来の船は一つの舵に一つのプロペラと極めて操船しにくく、自動着岸や位置保持等という海上作業船としては大変不都合な形態です。結果、比較的単純作業であることでさえも自動化が進んでいなかった要因となっていました。我々が提案するロボット漁船は鯛やサーモンやハマチといった自動給餌機を用いる養殖のみならず、ブリやマグロ等の直接船から餌やりを行う養殖にも適用できるという特色を持っていることから、極めて広範囲の適用が見込まれます。
図1にロボット漁船の生け簀への着岸の様子を示します。ロボット漁船により餌やりの完全自動化を実現し、養殖漁業者の労働軽減、更には漁業人口減少に対し貢献したいと思います。
ロボット漁船の実機の主寸法と1/7縮尺模型と主機選定について
表1にロボット漁船の主寸法と1/7縮尺模型の主寸法を示します。これは図2に示す養殖作業用漁船を参考にしました2)。本ロボット漁船の重要な部分であるストラット形状、ストラット取り付け機構についても設計しました。ストラットの大きさの検討では、簡便な運動方程式を立て、ストラットにより生け簀に着岸する際にどれ程減速効果を得られそうかシミュレーションを行いました。
ロボット漁船の1/7程の自動航行可能なロボット漁船模型を開発しました。模型はFroude則に従い縮尺しました。主な要目を表1に示します。新たに製作したロボット漁船1/7模型はGFRP製であり、ストラットもGFRPで製造しました。電装が備わっており、自動航行、自動着岸等が可能な仕様です。試験は三重県水産研究所にて行われました(図3)。
本ロボット漁船のコストを明らかにしました。本ロボット漁船を構築するうえで船体の価格は凡そ従来通りです。主機の仕組みは選択肢が数種類あります。表2はその数種類の選択肢の比較表です。尚、1駆動船外機のみは通常の漁船タイプのことであり、本コンセプトの主たる特徴の一つである推進器4つの場合との比較のために記載しています。全船外機4駆動タイプでこのロボット漁船を構築するのがコストパフォーマンスに優れているという結果を得ました。
着岸時に減速効果を生み出し、生け簀への着岸をし易くする役割を担うストラット
本ロボット漁船の大きな特徴の一つが4つのスラスターと、4つの大きなストラットと言えます。このストラットは、生け簀や港湾施設等への自動着岸時にロボット漁船を減速させるための役割を担っています。これによって凡そ総質量23ton程もあるロボット漁船の慣性力を弱めスラスター制御を容易にすることが出来ます。ストラットのサイズを検討するために簡便な運動方程式を立てロボット漁船が10knotからストラットが生み出す流体抵抗により何秒ほどでどれ程の減速を得られるか求めました。図4に模式図を示します。ストラット流体力は平板抵抗係数1.12を用いています。ロボット漁船の減速の時系列変化を図5に示します。速度低下、船長、喫水深さを鑑みて船長の凡そ1/10の長さ、深さのストラットサイズとしました。図6には製作した1/7模型のストラットの写真を示します。
ロボット漁船1/7模型の自動航行、自動着岸
自動航行・自動着岸制御アルゴリズムに従い、ロボット漁船の自航模型を制御するプログラムを開発しました。図7に自動航行からUターンして、自動着岸するまでの様子を示します。自動着岸に成功し、当初の目標を達成しました。当然ながら全て自動で行っています。
最後に
-実証試験フェーズに移行するために検討していくべき要素技術-
- 着岸装置の知的財産の確保と検証・・・生け簀は海上にあり、岸壁とは違い機器のメンテナンスが難しいものです。よって、ロボット漁船の着岸装置や手法は簡便さが求められます。この知的財産を新たに確保し、実証することが求められます。
- 自動給餌機への餌補給方法の確立・・・ロボット漁船が着岸した後、自動給餌機への餌補給が必要となります。粒状物質の搬送はダンプ式、バケットコンベア式、段付きコンベア式、バキュームポンプ、スクリューポンプ等が挙げられます。自動給餌機と連動した餌補給を検討する必要があります。
- 船外機の出力制御の確立・・・既に述べた試算では船外機を4機用いるのがコスト的に一番良いという結果になりました。即ち船外機の出力を自由に制御する技術を確立することが求められます。
謝辞
三重県水産研究所での実験は日本海工株式会社 増田憲和氏、元三重県水産研究所畑直亜氏、株式会社フラクタリー 田中祐樹氏、大阪公立大学海事流体力学研究室諸氏の協力を頂きました。本当にありがとうございました。また、本研究はJST START プロジェクト推進型SBIR フェーズ 1 支援 JPMJST2160 の支援を受けたものです。研究開発に際して様々な助言をして頂いた関係各位に感謝申し上げます。
参考文献
1) 二瓶泰範, 阪本啓志, 増田憲和: 船舶 特願2021-192585, 2021
2)社団法人海洋水産システム協会:平成23年度次世代型漁船等調査検討委託事業報告書,平成24年3月