牡蠣養殖技術の高度化に向けた取り組み

日立造船株式会社 兼大阪公立大学大学院博士後期課程2年 田村大樹

図2 模型実験の様子

はじめに

 私は日立造船株式会社の職員であり、かつ 大阪府立大学大学院の学生でもあります。大 学院ではCAINESのセンター長である二瓶先生の下で、2020年9月から「牡蠣養殖技術の高度化」をテーマとして研究に取り組んでいます。本稿では、大学院でこれまで取り組んできた研究内容についてご紹介します。

牡蠣養殖の背景

 牡蠣はほとんどが養殖により生産されています。垂下連と呼ばれるロープに等間隔に配置されたホタテ貝に牡蠣を付着させて生育する方法は垂下式養殖と呼ばれ、現代の主流となっています。また垂下連を吊るす方法によってさらに細かく分類され、例えばブイとブイを繋ぐロープに垂下連を吊るす方法は延縄式と呼ばれます。
 牡蠣の蓑殖期間は概ね1~3年程度であり、養殖期間が長いほど災害のリスクが高くなります。実際に2018年に日本に襲来した大型の台風21号により、牡蠣の義殖場は甚大な被害を受けました。被害内容として、複数の垂下連 が絡まってしまい、収穫できない状況が発生しました。このような社会的課題を顧みて、垂 下連が絡まりにくい配置を考案するなど、牡蠣養殖施設の台風被害を防止することを目的として研究を開始しました。

模型実験

 垂下連の最適配置を明らかにするためには様々な条件下での検証が必要であり、時間とコストの観点から、数値解析による評価が適しています。一方で、牡蠣養殖場における垂下連 の運動を評価するための数値解析ソフトというものはありません。そこで、洵洋構造物の運動解析によく用いられるOrcaflexを用いました。Orcaflexは海洋構造物を対象とした解析事例が多数存在しますが、牡蠣養殖場に適用された事例は確認されておりません。そこで、 Orcaflexにより牡蠣餐殖用ロープの運動解析を精度良く行えるかどうかを明確化することを目的として、模型実験との比較検証を実施しました。
 実験では長さ45 m、幅1 mの水槽を用いました。図1のように実験模型は延縄式羞殖を模擬し、牡蠣模型、ブイ模型および各種ロープにより構成しました。本実験の目的は数値解析の精度検証なので、数値解析で簡易的に模擬できるように牡蠣模型を図lのように球体としました。本実験では垂下連を1本のみとし、垂下連1本あたりの球体を5つとしました。

図1 実験の概略図および牡蠣模型の写真

 牡蠣養殖施設の実機および実験模型の主要目を表1 に示します。なお、実機における各材料の主要目は蓋殖施設ごとに異なります。また、牡蠣の形状や体積は時期や生育環境の条件などに影響されますので、垂下連1本ごとに異なります。本実験では、養殖場関係者からの聞き取り調査結果を基に整理した表 l の実機の主要目を基準として、実験模型の縮尺比を1/6~1/3としました。
表1供試模型の主要目

 図2のように供試模型を水槽内に設置し、外力として波を模型に対して一方向から与えました。物体の運動特性を把握するために発生波は規則波とし、波高4 cm、波周期3 secとしました。波高および波周期は波高計により計測しました。また、牡蠣模型の連動をビデオカメラにより正面から動両撮影し、動画解析ソフトTEMAにより球体の各時刻の変位量を導出しました。

数値解析

 水中における物体の運動方程式は以下の式(1)で表されます。

 ここで、M 、C、KおよびF(t)はそれぞれ物体の質量マトリクス、減衰カマトリクス、復元カマトリクスおよび外カベクトルであり、Aは排水量、Cは付加質量係数マトリクス、n は物体の変位ベクトルを表します。また、牡蠣やブイのようにロープに接続されている物体にはたらく外力は、ロープの張力ベクトルをTとすると以下のように表されます。

ここで、fは物体に作用する流体カマトリクス、mは物体の質星、gは重力加速度、Uzは鉛直上向きの単位ベクトルを表します。物体に作用する外力の評価には次式のモリソン式を用いました。

 ここで、Cmは慣性係数マトリクス、Cdは抗力係数マトリクス、afおよびvfはそれぞれ流体の加速度および速度ベクトル、ρは流体密度、Aは物体の投影面積を表します。式(1), (2), (3)を用いることで、物体の6 自由度運動を得ることができます。
 模型実験および数値解析では牡蠣模型の運動に着目し、5つの牡蠣模型それぞれの水平変位量と鉛直変位量を評価しました。牡蠣模型の運動の様子を図3に示します。波周期と同じ周期で牡蠣模型が同じ運動を繰り返す現象が確認されました。
 牡蠣模型の水平変位量を図4(a)に、また鉛直変位量を図4(b)にそれぞれ示します。ここで、鉛直上側に位置する牡蠣模型から順に水平変位量をX1~X5、また鉛直変位鼠をz1~Z5と定義しました。図4には鉛直上側に位固する牡蠣模型の時系列データから順に配置しました。それぞれのデータは変位量の平均値が0となるようにし、基準位置からの変位量に着目しました。図4(a)より、水平変位量については、模型実験と数値解析で概ね一致していることが確認されました。
 本研究では牡蠣養殖施設の台風被害防止策の考案を目的としており、特に隣り合う垂下連同士が絡まる現象の解明が重要です。この現象は主に垂下連の水平変位によるものであり、隣り合う垂下連がそれぞれ異なる位相あるいは異なる方向に運動するときに発生すると考えられます。したがって、牡蠣の水平変位量の評価が軍要です。前述のとおり、模型実験および数値解析の結果から水平変位量が良く一致する結果が得られたので、Orcaflexによる垂下連の運動評価は可能であると考えられます。

おわりに

 牡蠣養殖施設における台風被害を防止することを目標とした研究成果の一部をご紹介させていただきました。数値解析の適用先を模索していますので、「台風が来た時に筏がどのくらい揺れているのか知りたい」、「流れが強いときにロープにどのくらい力がかかるのか知りたい」など数値解析で解決できるようなご要望があれば、ご相談いただければと思います。
 研究を進めていくにあたって、CAINESの皆様から牡蠣掟殖に関する様々な情報を頂きました。この場をお借りして感謝申し上げるとともに、引き続きご協力いただけますと幸甚です。

図3 牡蠣模型の運動の様子

図4 牡蠣模型の変位量