1. ダム貯水池が抱える問題
ダム貯水池では春先から夏場にかけて、直射日光や気温の変化により水温が変化し、水温躍層が形成されます。水温躍層とは、太陽により温められた表層水と冷たい深層水の間に存在する、水温が急激に変化する層のことです。水温躍層を境にして浅層、中層、底層では密度が大きく異なるため、水の動きが無くなり、表層の酸素を含んだ水が底層に供給されなくなり、底層ではバクテリアによって酸素が消費されていきます。この現象を深層部貧酸素化といいます。深層部貧酸素化は魚の斃死、硫化水素やカビ臭の発生、底泥からの鉄、マンガンの溶出、リンの溶出、窒素濃度の上昇、水質の悪化、貯水池の着色や異臭の発生を引き起こす原因となります。弊社では深層部貧酸素化に対して、深層曝気装置の設置を推奨しています。ここでは、Sダムに深層曝気装置を導入し、大阪公立大学 工学研究科航空宇宙海洋系専攻の二瓶先生監修のもと日本海工㈱様のロボセンを用いて深層曝気装置の効果を検証しましたのでご報告させていただきます。
2. 深層曝気装置とは
深層曝気装置とは、貧酸素化した深層部に酸素を供給することで深層部の貧酸素化を改善する装置です。本装置は、コンプレッサ、送気管、シンカー、深層曝気装置本体からなります。コンプレッサは陸上部に設置し圧縮空気を深層曝気装置まで送気管を介して送り、空気は上部の排気用ホースを介して排気装置から排出します。深層曝気装置は湖底に設置したシンカーにより本体を強制的に水中に沈ませた状態です(図1)。
深層曝気装置の下部には散気管が配置されており、コンプレッサから送気された空気を散気管から排出します。装置の内筒内を空気が上昇するに伴い、エアリフトポンプの要領で深層部の水を装置内へ引き込みます。これにより装置の内筒内を空気中の酸素が溶け込みながら上昇することとなります。装置の上部で空気と水を分離させ、空気は装置の上部から排出し、水は外筒へ導きます。これにより酸素量が改善された深層水は外筒内を下降し、吐出口から排出されます。これを繰り返すことで、深層部の水を改善する仕組みです(図2)。深層曝気装置とは、底層の水を吸込み、酸素を供給し、底層部に返すことで温度躍層を破壊せず、底層部の貧酸素化を改善することが可能な装置です。また、深層曝気装置本体はポンプなどの動力設備が無いため、基本的にメンテナンスフリーで長期間運用することが可能です。
これまでの実績としては、国土交通省、水資源機構など、比較的大きな規模のダム貯水池に導入され、現在までに28基ほど納入しています。
3. 検証を行った装置仕様と経緯
今回、更新した深層曝気装置の仕様は、外筒直径はφ2400㎜(既設1600㎜)、内筒直径はφ1200㎜(既設500㎜)、筒長は16m(既設13m)、送気量は1.8㎥/min/1台(既設1.8㎥/min/4台)です。外筒直径、内筒直径ともに過去最大であり、実績が無く、効果が分からない為、検証しました。
また、今回深層曝気装置を更新したSダムは中層と底層の間に取水口があり、そのため底層・中層の水質改善を重点的におこなっているダムです。今までは深層曝気装置が4台設置され、運用されていましたが、今回は堤体前の1台のみを更新し、更新機器の性能を確認するために、その他の3台は停止させた状態で効果検証を実施しました(図3)。
4. 水質測定内容
4.1.K市による定期的な水質測定
K市による水質測定は、測定点まで船で移動し、稼働中の深層曝気装置から上流に約500mピッチで計測点を配置し、計測機器を手作業で下ろし、計6点を計測したものです。計測頻度は週1回(月曜日測定)で計測項目は、DOと水温のみでした(図4)。
深層曝気装置による効果検証について、K市による定期的な水質測定のデータをいただくことに加え詳細なデータによる分析が必要と判断し、上下流方向に細かく追加で測定することとしました。なお、溶存酸素量の目標は一般的な数値である3.0mg/l以上としました。
4.2.ロボセンによる追加水質測定
ロボセンを用いた水質調査は、自動航行することを生かし、事前に測定位置を入力することで容易に計測することが可能です。稼働中の深層曝気装置の廻りを4か所と上流に約200mピッチで計測点12か所を配置し、計16点を計測しました(図5)。計測日程は2023年07月07日(金)、2023年08月02日(水)、2023年09月05日(火)の計3回で計測項目は、DO、水温、SS、ORPです。
5. 効果検証
5.1.調査結果- K市による水質測定
2023年6月12日のDOグラフを図6に示します。グラフの縦軸は水深、横軸は酸素量の値を示しています。これは装置を運転して20日後のグラフであり、DO3.0mg/lを大幅に上回った結果を示しています。ただし、測定点はA~Fにかけて上流に配置していますが、D 点(オレンジ色)が若干3.0mg/lを切っており測定間隔が約500mピッチと大きいため、C点-D点間の状況や深層曝気装置の効果範囲が、不明確でした。
5.2.調査結果-ロボセンによる追加水質測定
2023年08月02日(水)のDOグラフを図7に示します。グラフの縦軸は水深、横軸は計測位置、配色でDOの濃度を示しています。計測した水温から底層域を割り出し、赤枠で囲っています。底層部は概ねDO3.0mg/(l 黄緑色)を確保できていますが、中層域にDOが低い箇所が確認されます(オレンジ色)。これは、上流側の浅く底層域が無い箇所で貧酸素化が発生し、取水により貧酸素水塊が下流側へ流下しているためです。これにつられて底層部に一部DO低下がみられるものの、全体的にDO3.0mg/l以上を確保することができました。
この検証により、K市による水質測定では確認できなかった効果範囲を具体的に示すことができ、目安であるDO3.0mg/Lは1.4㎞先まで影響を及ぼすことが確認できました。また、DO3.0mg/Lには至らないものも装置の効果としては1.6km先まで及んでいることが確認できました。
6. ロボセンによる成果
効果検証した貯水池はかなり複雑な地形ではありましたが、ダムから上流1.4km程度までの貧酸素水域全体をDO3.0mg/L以上に維持できていることが確認できました。また、ロボセンによる水質調査結果より、手作業によるK市の水質測定に比べ、短時間でより詳細なデータが得られ、深層曝気装置の効果が上流まで届いていることがわかりました。
7. まとめ
今回のロボセンによる調査を通して深層曝気装置の効果やSダムの現状が短時間で確認でき、深層曝気装置の運用方法や規模などの見直しに繋がり、K市への今後の具体的な提案ができることとなりました。
最後に、慣れない環境の中、ご尽力いただいた二瓶先生と日本海工㈱様の関係者に感謝いたします。