通貨処理機メーカー水産事業への取り組み

グローリー株式会社 三田 翔太

図1 GLORY機械

1. はじめに

 グローリー株式会社は通貨処理機の製造・販売を本業としておりますが、新規分野の事業を開拓する取り組みの一つとして2020年から水産分野に着目した活動を行っております。2021年には、牡蠣養殖場の水質調査IoT機器及び、閲覧用アプリを開発し、実証実験を実施しました。
 その後、収益性の確認を行いましたが、想定導入数が目標に至らないなどの理由で、当社の事業化判断基準に到達できず中止となりました。その後も、水産分野で当社の強みを生かしたソリューションが生み出せないかと検討を進めております。近年は成長が著しい陸上養殖にスポットを当てております。

2. 当社の強み、事業

 当社の強みは、通貨処理機の開発によって培われた高速で正確にモノを見分ける認識・識別技術です。当社は通貨を見分ける技術を応用し、印鑑照合、OCR、指紋認証、顔認証へと発展させ、製品化しています。
 近年はカメラ画像を用いた骨格認識技術を活用し、高齢者施設にて転倒検知システム「mirAI-EYE(ミライアイ)」なども提供しています。

図2 mirAI-EYE製品

3. 陸上養殖分野へのアプローチ

 陸上養殖分野の情報収集を行い、陸上養殖従事者へのヒアリングなどを重ねてきました。その中で当社が着目したのは「陸上で養殖している魚の生産管理」についてです。
 これからの陸上養殖産業の成長に伴い、将来的には養殖過程がより工業的になることで「正確な飼育数や大きさの把握」、「給餌量の適正化」、「成長記録の保管」などが必要になると予測しています。
 その中で、水槽内の魚の数や大きさという情報は養殖の生産管理過程において、より重要な情報になると考えられるため、それらを計測する装置が必要となり、正確に測定する装置は当社の強みである認識・識別技術により実現できる可能性があります。

4. どのように測定を実現するのか

 現在は、広角カメラやステレオカメラで水槽全体を撮影し、魚の数と大きさを計測する方式が主流です。
 しかし、その手段では、水の濁りの影響を受けやすく、光源位置が定まらない、さらにはカメラ手前の魚に奥の魚が隠れるなど、正確な計測が困難となることが課題としてあります。
 その解決策として当社は、魚が通ることが可能なサイズの透明な管を用い、中を通る魚を管の横に備え付けたハイスピードカメラで撮影し、計測することとしました。撮影済みの魚は同水槽内で分けて保管することで同一の魚が複数回計測されない仕組みを検討しました。
 この構造は、魚の撮影位置や光源の当て方を調整できることから、正確な計測が可能です。ゆえに、一水槽ごとの魚の数だけでなく、大きさ分布などの生産管理に必要な育成情報を取得できることが期待できます。また魚の外観に特徴が現れる病気などであれば、同時に病気も検出できる可能性があります。

図3 モック

 当社は、図3のような簡易な実験装置を組み立て、撮影の実験を行いました。
 断面が約40[mm]x40[mm]の四角い透明の管の中を、育成中の魚に見立てた体長約150[mm]の魚ダミーを流し、撮影テストを行いました。管の中の魚は約1000[mm/s]で移動していますが、光源を調整し240fpsの高速撮影を行うことで魚の画像を鮮明に撮影することができました。
 また、撮影された魚の画像を機械学習させることで、管の中の魚をプログラムが自動認識し、計測する仕組みを構築することができました。

図4 魚の認識画像

5. 残る課題

 当社の考案した計測方式には課題も残ります。魚の種類や習性、遊泳能力によっては水流による搬送ができないという課題や、管に気泡やゴミが流れた際に魚と誤認識してしまう課題、製品化においては魚の通路を各魚種に対して個別設計することが必要となる可能性もあります。
 上記課題は当社の既存技術では解決できず、新規の技術開発が必要です。その難度が未知数であることから、当社独自で製品化を進められる可能性は低いのではないかと考えています。
 そのため、今後当社の取り組みに興味を持っていただいた企業と協業したいと思っており日頃から情報収集を行っております。

6. まとめ

 当社はこれまで培ってきた見分ける技術を活用した水産養殖向けサービスの検討を行う中で、養殖魚の生産管理に活用することを考えました。画像認識で養殖中の魚の数や大きさを正確に計測することで水槽内の状態を可視化し、効率的な給餌や適切な育成計画を立てることができるようになると考えています。当社は水槽内の魚を鮮明に撮影することに成功しましたが、製品化にはまだ課題が数多く存在することも明らかになりました。今後も技術協力をしていただける企業を探しつつ、魚のより正確な数・大きさの計測技術の向上に向けて努めてまいります。また、仕分け等の生産管理に必要な自動化技術にも取り組んでまいります。