ロボット漁船の実機実現に向けた研究開発

大阪公立大学養殖場高度化推進研究センター 二瓶 泰範 
株式会社フラクタリー 阪本 啓志 
関西設計株式会社 吉良 浩司 

1. ロボット漁船とは

図1 一般的な養殖生け簀の様子

 図1に魚類養殖のための生け簀の様子を示します。魚類養殖は生け簀の中で魚を飼う養殖方法であり、常に給餌が行われています。波浪がさほど大きくない海面には自動給餌機が図1中に示される様に設置され、ここに餌が蓄えられています。一定時間が来ると餌が投入される、所謂タイマー式が一般的ですが、近年では画像認識により餌食い状況を把握して餌を投入する自動給餌機も登場しています。
 自動給餌機は漁業者の労働軽減に一定程度の役割を果たしています。一方で、自動給餌機の大きさには様々なタイプがあり、400kgの餌が入る自動給餌機が多く設置されています。小規模、中規模問わず、一般的な養殖事業者は30台程度の生け簀を保有し事業を行っている場合が多いため、即ち総計12tonもの餌補給を毎日給餌機に行う養殖事業者もいることになります。当然ながらシーズンによっても餌補給のタイミングは異なりますが、多大な労力がかかっていることは言うまでもありません。また、うねりが入ってくる海域では自動給餌機が使えなかったり、大量の餌を食べる魚種は自動給餌機への餌補給が間に合わず船から直接餌やりをやっている場合も見受けられます。このような海域ではさらなる労働負荷がかかっています。
 ロボット漁船はこうした背景の中、筆者らが研究開発を行っている自動航行船です(図2)。港で餌を積み込んだ後、生け簀まで自動航行し、生け簀を画像認識し自動着岸、自動係船を行った後に、自動で餌を補給し、次の生け簀に移動し同じ作業を行い寄港するという自動航行船です。一般的に使われる養殖用漁船の大きさを鑑みて全長7 m、10 m、15 mサイズの3タイプのロボット漁船の構築を目指しています。

図2 ロボット漁船のコンセプト

2. ロボット漁船研究開発経緯

 筆者らは2020年度よりロボット漁船の研究開発を行ってきました。養殖生け簀は幅15m~20m程度の間隔で設置されており、生け簀への自動着岸や養殖場内の細かな操船が求められます。そこで図2のように4つのストラット付きスラスターを装備する漁船としました文献(1)。ストラットにより制動も可能な船になっています。
 実海域における検証に入る前に本ロボット漁船の縮尺模型等を用いての検証を以下のフェーズに分けて実施してきました。

  • フェーズ1(文献2)…自動航行制御則のを確認し、狙った地点へ自動着岸する。(2021年度)
  • フェーズ2 (文献3)…LiDARや画像認識等により生け簀を認識し自動着岸する。また、自動着岸後の自動係船を実現する。ロボット漁船の艤装品となる餌補給手法を確立する。(2022年度)
  • フェーズ3 (文献4)…ロバスト性の高い自動着岸アルゴリズムを構築する。また、ロボット漁船モジュールを開発する。(2023年度)

 自動着岸においてフェーズ1ではGPS及び地磁気センサーで自動誘導していました。しかし、海上の生け簀は係留されているものの、風等の影響で長周期動揺しています。そこでLiDARにより生け簀に取り付けられた2つの識別版を捉え生け簀の位置と向きを算出し、かつボラードに電動スライダーを用いて自動係船する手法を構築しました(図3 (a)及び(b))。ロボット漁船から自動給餌機への餌補給は、自動給餌機に取り付けた受け口を画像認識し、餌補給ノズルを制御(c)し、エアーで移送する技術を構築しました。
 フェーズ3では不意な外力が生じ航路から大きく逸れた際に、着岸可否を判断し、必要に応じて着岸開始場所まで戻り、改めて着岸を行う制御則等の構築を行いました。

3. 7mのロボット漁船実機の製造と実海域試験へ

 前節で示してきたように要素技術構築がなされました。既に述べた様に大きさが異なる3つのタイプのロボット漁船が必要であると考えています。筆者等は2024年2月に一般社団法人マリノフォーラム21の公募事業の採択を受け、7 mのロボット漁船の実機開発と実海域実証試験を開始しています(文献5)。7mのロボット漁船のCAD図を図4に、主寸法および主たる性能を表1に示します。
 現行法では、小型船舶において無人での航行を規制する法律はなく、国土交通省が発行している「遠隔操縦小型船舶に関する安全ガイドライン」を基にロボット漁船の検査方法や構造、設備、使用方法等の要件を関係省庁と擦り合わせる必要があります。そのため、7mのロボット漁船実証機においては自動航行、遠隔航行のみでなく、本船内での手動航行もできる仕様とし、船舶免許の保有者がロボット漁船に同乗し、緊急時には手動での操船も可能な機能を設け試験を実施していきます。加えて、本船は都道府県が実施する漁船登録を行っています。

図3(a)ロボット漁船に取り付けられた装置類 図3(b) ロボット漁船の着岸制御の様子

図3(c)ノズルの制御

4. 今後のロボット漁船の研究開発

 ロボット漁船の研究開発は2020年度に構想を描き始め、2021年度より実際の研究開発が始まりました。毎年度少しずつ少しずつ研究開発を続け、2023年度に要素技術に関わる試験を終え、2024年夏からは本格的な実海域試験が始まります。この先は10m、15mサイズのロボット漁船の研究開発も始めていく必要があります。関係各所の御協力がさらに必要になると思いますが、応援とご協力をお願いしたいと思います。

図4 ロボット漁船7m実機モデル

参考文献

  1. 二瓶 泰範、 阪本 啓志、 増田 憲和: 船舶、特願2021-192585、 2021.
  2. 科学技術振興機構(JST): 研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム<プロジェクト推進型 SBIRフェーズ1支援>2021年度新規課題の決定について、科学技術振興機構報 第1538号、https://www.jst.go.jp/pr/info/info1538/index.html.
  3. 生物系特定産業技術研究支援センター(BRAIN):スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)令和4年度公募に係る審査結果についてhttps://www.naro.go.jp/laboratory/brain/press/154816.html.
  4. 大阪公立大学: 株式会社ロボティクスセーリングラボを大学発ベンチャーとして認定、https://www.omu.ac.jp/info/news/entry-07979.html.
  5. 一般社団法人マリノフォーラム21:養殖業成長産業化提案公募型実証事業(令和5年度公募)https://www.mf21.or.jp/koubojigyo_list.html.