残餌計数システムを利用して摂餌活性の時間変化をモデル化する

福井県立大学海洋生物資源学部 先端増養殖科学科
富永 修 坂口 晃將 高橋 秀周

1. はじめに

 魚類養殖は、漁船漁業よりも安定して魚を市場に供給できるという利点がある一方で、出荷時にサイズ、数および品質を揃える必要があり、計画的な成長管理を行うことが求められます。他方、海面魚類養殖の経費をみると、飼料代が全支出額の6割以上を占めています。そのため、過剰な給餌によって多量の残餌が発生すると、生産コストの増大につながるだけでなく、養殖場周辺海域への有機物の負荷や栄養塩の流出による富栄養化が進み自家汚染を招くことになります。一方、給餌量が不十分であると、計画的な生産ができなくなることに加えて、生簀内で魚のサイズにばらつきが生じる原因にもなります。このような技術的な課題を背景として、養殖生産では、食べ残しの餌を最小化して、ねらい通りに成長させる給餌方法を確立することが求められています。
 魚は給餌を続けると次第に食欲が満たされるため、時間経過とともに摂餌の活性(時間当たりの摂餌量)が低下していきます。手撒き給餌の場合、摂餌の様子を見ながら給餌量を調節することが可能ですが、担当者の習熟度や経験(勘)に依存する割合が大きく、安定して生産を行うことが難しいという問題があります。一方、近年の残餌の抑制に向けた取り組みには、魚の学習を利用した自発摂餌やリアルタイムで遠隔給餌を行う方法に加えて、給餌時の魚の行動や海面の様子をカメラで撮影し、これらの画像から機械学習により摂餌活性を判断し、給餌のON/OFFを決定するシステムが実用化されつつあります。しかし、これらの方法では、残餌を削減する効果はあるものの残餌を定量化できないために、必要な摂餌量を満たしているかどうかがわかりません。
 これまで、給餌率や給餌回数が摂餌量および成長率に及ぼす影響を調べることで、それぞれの魚種に適した給餌条件が検討されてきました。しかし、1日に必要な量を摂餌させて残餌を最小化するには、給餌機が1回作動(あるいは投餌1回)した時に摂餌する正確な餌の量とその時間変化に着目して給餌条件を最適化する必要があります。そのために残餌を連続的に回収して計数するシステムと1回の作動時間(秒単位)、作動間隔、作動継続時間、作動時刻をクラウドで管理できる自動給餌器を組み合わせて、ペレット(粒状の配合餌料)を給餌した場合の摂餌量(給餌量-残餌量)を正確に計測するシステムの開発をめざしました。この残餌計数システムに関しては富永1)が紹介していますが、ここでも簡単に説明したいと思います。

2. 残餌計数システムとその活用

図1 残餌計数システムの概略図

 図1に示すように、自動給餌機((株)福伸電機製)の真下に魚が食べ残した餌を回収するための大型の透明塩ビ製漏斗を設置し、水槽外まで伸ばしたビニールチューブを漏斗下部に取り付けました。このチューブの途中に残餌を計数するための光ファイバーセンサを設置しました。給餌されて摂餌されなかった残餌はサイフォンを利用してチューブ内を輸送されるためポンプなどの機器は必要ありません。餌がカウント用センサ部分を流れると1秒単位でコンピュータに通過した餌の数が記録されます。ビニールチューブは海水を通すと1週間程度で白濁するためセンサでの計数が不安定になってしまいます。そのため、いろいろ試した結果、最終的にアクリル製透明角型チューブ(図2)を作成してセンサ箇所に接続することでこの問題を解決することができました。このように開発した残餌計数システムとクラウドで管理できる自動給餌システムを組み合わせることで、摂餌量(給餌量-残餌量)を正確に計測することができるようになりました。図3は、ある魚種で1回の給餌における30秒毎の残餌率(%:残餌量÷給餌量)を計測して、摂餌活性の時間変化を調べた結果です。給餌開始時は投与した餌のほぼすべてを利用していますが、時間がたつにつれて残餌の割合が増加します。給餌開始から30分経過してもいくらか摂餌をしていますが、80%以上が無駄な餌になっていることがわかります。また、最尤法を用いて残餌割合の時間変化を指数関数でモデル化することができました。得られた摂餌活性の時間変化に合わせて給餌量を決定できれば、ほぼ残餌をなくすことができます。
 一方、計画的な生産をするためには、取り上げ時点で出荷サイズまで成長させる必要があります。成長そのものを制御することは難しいものの、成長と直接関連する摂餌量をコントロールすることは可能と考えました。そのため、私たちの研究グループは、自動給餌機が1回作動する時の給餌量(報酬量)、給餌継続時間や1日の給餌回数などの給餌条件を変えて摂餌量をコントロールすることが可能かどうかを検討してきました。富永1)は上記の3つの給餌条件のうち、給餌継続時間と1日の給餌回数を固定して報酬量を変化させた場合と1日の給餌回数と報酬量を固定して給餌継続時間を変化させた場合の摂餌活性の時間を試験した結果、給餌条件が変わると摂餌活性の変化パターンが大きく変化することを報告しています。これらの結果によって、残餌を最小化させて、摂餌する量をねらい通りにコントロールできる可能性が示されました。

図2 光ファイバーセンサ部のアクリル製透明角型チューブ

図3 給餌開始からの時間と30秒毎の残餌率(残餌%=残餌量×100÷給餌量)の関係

 魚の1日の摂餌量は飼育環境、収容尾数や魚のサイズなどにより変化します。開発した残餌計数システムを用いることで、摂餌量に関して興味深い情報を得ることもできました。12月6日から25日の期間、2t水槽で1歳の人工種苗マサバ10尾を飼育し、15分に3秒間の給餌(約5.4g)を20日間連続して行い、日間摂餌量と飼育水温(19℃から28℃)の関係を検討しました(図4)。その結果、水温19℃で1尾あたりの日間摂餌量は12.7g(体重の4.6%)、28℃では17.5g(体重の6.4%)に増加することと、水温が上がるとほぼ同時に日間摂餌量が増加することが示されました。このことは、毎日の水温変化に摂餌量が敏感に応答することを示しています。

図4 連続自動給餌した1歳マサバの水温と日間摂餌量、残餌割合の関係

3. 今後の展望

 摂餌活性の時間変化をモデル化できれば給餌条件の組み合わせで摂餌量を決定することができるようになります。その結果、自動給餌機のプログラミングだけで給餌方法を最適化することが可能になると考えています。比較的小さな規模の養殖場が多い日本では、安価で容易に導入することができることから、給餌システムの最適化に大きく寄与することが期待されます。

参考文献

  1. 富永 修、陸上養殖の現在と未来 産業普及・環境対応・収益化の取り組みから閉鎖循環式陸上養殖システム動向、参入知識、飼育事例まで、情報機構、287pp、2024