1. あなたの好みの牡蠣は?
日本国内では、様々な銘柄の牡蠣が生産されています。最も多く生産されているのはマガキな種は(Crassostrea gigas)ですが、この他にイワガキ(C. nippona)、シカメガキ(C. sikamea)などが養殖対象種とされています。牡蠣は、育成方法や環境によって、その商品特徴が様々に変わる生き物で、つまり生産者の育成に関するこだわりや意向が、商品の個性に強く反映される不思議な生き物だと言えます。
では、皆さんの好みの牡蠣はどんな牡蠣ですか?大きい?小さい?ぷりぷり?瑞々しい?磯の香り高い?あっさり?濃厚?牡蠣の商品を紹介するワードは様々あります。現状の牡蠣を扱うECサイトなどでは、これらの「主観ワード」が飛び交い、牡蠣の特徴を紹介しています。ではどれくらい?他と比べてどれくらい強くその特徴を示しているのかなどの情報はありません。つまり、どの産地のどの銘柄の牡蠣も、届いてみないと、いいえ、食べてみないとその特徴は分からなかったのだと思っています。
さらに、牡蠣の身の状況や味は、季節と水温の影響を強く受けます。水温が下がる冬季には、たっぷりとグリコーゲンを蓄えた白い身、春は生殖層が発達して、噛むとトロッと中身が溢れ出す白子のような食感、夏から秋は産卵を終えて痩せて、海水を多く含む透き通った身質を呈します。よって、同じ銘柄でも季節によって身質は変化し、味や見た目も大きく変わります。
広島県立総合技術研究所は大阪公立大学と共に、出荷対象の牡蠣の商品特徴をリアルタイムで数値化し、消費者に分かりやすく伝えるためのツールを開発することとしました。
2. 牡蠣の商品評価6項目を開発
まずは、牡蠣生産者が消費者に伝えたい商品特徴と、消費者が知りたい商品特徴とは何か、分析してみることにしました。牡蠣を対象としてECサイトや、牡蠣の特徴を紹介したWebサイトを20サイト調査し、牡蠣の特徴を伝えるための主観ワードを520個抽出しました。これらのワードについて、何に関する説明ワードなのかを分類してみたところ、図1のような結果になりました。これらのうち、特に記載の多かった上位6項目を、「牡蠣の商品評価6項目」と名付け、これらを自動で評価し数値化する手法について検討することにしました。商品評価項目とその内容は表1のとおりとしました。
3. 分析を回避して、簡単に評価できないか?
私たちの開発目標は、客観的な情報に基づいた商品評価値をリアルタイムで提供することです。つまり、牡蠣生産者が生産現場において出荷中の牡蠣に関する情報を取得し、その情報に基づいて算出された商品評価値を市場に提供することを目的とします(図2)。
評価は客観的なデータに基づく必要があります。牡蠣の味(旨味、甘味)に関与することが知られている物質としては、グリコーゲン、遊離アミノ酸、特にグリシン、アラニン、スレオニン、セリンなどの物質がありますが、いずれの物質も分析による数値化が必要で、これらの分析に必要な時間、コスト、専門知識のある人員などがネックとなり、現場でのリアルタイムでの数値化には不向きです。また、味覚を直接的に評価する「味覚分析装置」というものも開発されていますが、分析装置が非常に効果高価であること、前処理などに専門知識が必要なこと、高額な消耗品が必要であることなどから考えて、それぞれの生産現場への導入は難しいと判断しました。この経緯を経て、なんとかこれらの分析を回避しつつ、客観的であると利用者に認められる指標はないかと考え、画像認識技術を利用した分析手法を開発することとしました。つまり、出荷中の牡蠣の写真を生産者に撮ってもらい、その写真の特徴から商品評価値を算出するシステムを開発します(図3)。
4. 牡蠣プロファイリングシステムの構想
商品評価6項目のうち、サイズや身のボリュームに関する数値化は、牡蠣の画像から各部の長さ、面積などを読み取り、同時に重量を図ることができれば何とか評価できそうです。問題は、消費者の皆さんが何を基に「サイズ感」を評価しているかが分かっていないことです。長さでしょうか?重さでしょうか?もしかしたら色やごつごつ感なども影響しているかもしれません。これらの客観的数値と主観評価の関連性を解明すれば、外観データから評価値を算出することが可能になると考えています。
味に関する2項目(旨味と甘味)については、成分分析結果と画像データの特徴を連携させることができれば、分析結果の数値を画像から推定できると考えています。グリコーゲンの蓄積が増えると、身は白からクリーム色を呈し、生殖層が発達すると少し赤みを帯びることから、むき身の外観から得られる色彩情報は重要な手掛かりとなると期待されます。遊離アミノ酸量は甘味の呈味に影響しますが、Webサイトの記載にしばしば「貝柱が大きくて甘い」という、貝柱の大きさと甘味を関連付けた表記がみられるため、身に対する貝柱の大きさを評価して、関連性を確認したいと考えています。
食感と香りについては、まずは専用の装置を使用して数値化してみたいと思います。食感は「食品用硬さ計」や「食感センサ」という装置がありますし、香りについては、香りの強弱を臭気センサで数値化して、画像の特徴との関連性を解析したいと思います。
5. 今後の取り組み
牡蠣プロファイリングシステムは、生産現場と消費者をつなぐコミュニケーションツールであり、牡蠣ブランドと産地の個性を見える化するための「差別化」に貢献します。手間をかけてこだわりを持って生産される牡蠣ブランドを、価格競争に持ち込ませないためにも、商品特徴を消費者に分かりやすく伝え、様々なブランドの中から「今日食べたい牡蠣」を選ぶ楽しさを消費者に提供する必要があります。
成分分析等結果等のデータと画像データ、また消費者らによる主観評価データをデータセットとし、これを推定値算出のための教師データとして利用できるように一定数集めるためには、とても大きな研究予算が必要です。このため、競争的研究資金の獲得を目指して活動しています。基礎データと集めて開発プロトコルの精度を上げながら、開発に賛同いただける協力者を随時探しています。また、対象銘柄の試食による主観評価データ採取にも、会員の皆さんのご協力を頂ければと思っています。興味をお持ちの方は是非ご連絡ください。