沖縄県における赤土等流出問題について

沖縄県保健医療介護部 衛生環境研究所 比嘉 彩也香

赤土等流出の様子

1. はじめに

 沖縄県保健医療介護部 衛生環境研究所は、企画管理班、衛生科学班、環境科学班および感染症研究センターの4つで構成され、県民の健康と生活環境を守るための保健衛生および環境保全に関する科学的調査・研究を行っています。環境科学班は、大気環境グループと水環境グループに分かれており、私は水環境グループに所属しています。当グループでは、公共用水域および地下水の監視調査や事業場排水等の水質分析、赤土等流出問題に関する調査研究も実施しています。
 赤土等流出問題に関する調査研究の一環として、国立環境研究所との共同研究を実施しており、共同研究者の中田聡史博士から、日本海工株式会社の増田憲和様をご紹介いただきました。このご縁により、CAINESセミナーに登壇させていただくこととなりました。
 本稿では、2025年3月のCAINESセミナーで発表した、沖縄県における赤土等流出問題について紹介します。

2. 赤土等流出問題とは

 沖縄県の代表的な土壌として、「国頭マージ」「島尻マージ」「ジャーガル」等があります。「マージ」は沖縄の方言で、赤色系の土壌を指します。「ジャーガル」はクチャと呼ばれる泥岩が浸食されたもので、灰色の土壌です。赤色以外の土壌も含むことから赤土”等”と呼んでいます。 赤土等は、土壌粒子同士を接着させる有機物量が少ないため、団粒構造を形成しにくく、分散しやすい特徴を持っています。さらに沖縄県は傾斜が急で短い河川を有し、強い雨が降る等の特徴から、他県に比べて土壌流出のリスクが高いとされています。
 赤土等流出問題は、開発現場や農地、米軍演習場等から土壌が流出し、河川や海の生態系等に悪影響を及ぼすことを言います。特に沖縄県は、観光立県として、美しい自然環境の維持が重要ですが、赤土等の流出は濁水を発生させ、海の景観を損なうだけでなく、サンゴ礁生態系にも深刻な影響を及ぼします。

3. サンゴ礁生態系への影響

 沖縄の海は、透明度が高く、光合成によって成長するサンゴが多く生息しています。サンゴは、複雑な立体構造を形成し、魚やエビ等、小さな生き物たちの住処や隠れ家を提供します(図1)。小さな生き物を捕食するために、魚類等の大型生物も集まり、サンゴ礁には多種多様な生物が生息しています。しかしながら、赤土等の流出は、サンゴの光合成を阻害し、成長を妨げるだけでなく、サンゴに直接堆積することで、死滅にも繋がります。
 国立環境研究所と衛生環境研究所の共同研究では、赤土等の陸域負荷がサンゴに及ぼす影響をより詳細に調べるために、同一海域の近接した地点において陸域負荷の高い地点(「高負荷区」という。)と低い地点(「低負荷区」という。)を選定し、海域調査を実施しました。高負荷区の岩盤は、低負荷区よりも単位面積当たりの堆積物量が多い地点となっています。両地点における生きたサンゴが岩盤を覆う割合は、低負荷区よりも高負荷区が低く、出現するサンゴの種数も高負荷区の方が少ない結果となりました。地点間でサンゴの被覆割合が異なる結果となった要因の一つとして、サンゴの新規加入量に違いがあると考えました。

図1 サンゴの隙間に魚が隠れている様子

図2 サンゴの発生過程(大久保(2,3)を参考に作成)

 サンゴが、岩盤等の新しい地点に加入する方法は2通りあります。折れたサンゴの枝等が、移動先の岩盤上で増殖し成長する方法(無性生殖)と、受精卵がプラヌラ幼生(サンゴの幼生)となり、幼生が岩盤へ着底する方法(有性生殖)です。本調査における加入量の比較として、後者の有性生殖による検証を実施しました。有性生殖によるサンゴの発生過程については、図2のとおりです。実験に使用したサンゴは、ウスエダミドリイシAcropora tenuisという種類のサンゴで、複数群体を受精させることで、プラヌラ幼生を準備しました。一つの水槽に、調査海域から採取した高負荷区と低負荷区の岩盤を用意し、その水槽にプラヌラ幼生を加えました。しばらく水槽で飼育した後、岩盤投影面積当たりの着底率を比較したところ、高負荷区は低負荷区よりも優位に着底率が低い結果となりました。この水槽実験から、赤土等の堆積負荷がサンゴ幼生の着底を阻害することが示唆されました1)。
 また、赤土等の影響はサンゴだけでなく、アオサやモズク等の海藻類の生育も阻害するため、赤土等の流出はサンゴ礁の生態系全体に悪影響を及ぼします。

4. モニタリング手法の開発

 沖縄県では、海の赤土等堆積状況をモニタリングするために、底質中懸濁物質含量(SPSS:Suspended Particles in Sea Sediment)簡易測定法を開発しました。SPSS簡易測定法は、簡便な器材と簡単な操作で、底質状況を数値化することが可能です(図3,4)。詳しい測定方法については、沖縄県ホームページをご参照ください(https://www.pref.okinawa.jp/kurashikankyo/kankyo/1004750/1018610/1004456/1004459.html)
 SPSSは、底質の外観と対応するよう、ランク分けされており、海域ごとに目標とするランクが設定されています。SPSSランクがどのように変化するか、継続した調査が重要となります。

図3 サンプリングの様子

図4 採取後のサンプル

5. 沖縄県の取組と現状

 赤土等流出問題は、1972年の日本復帰以降の大規模開発が進む中で顕在化しました。当時は、開発行為における赤土等流出防止対策が十分に施されなかったため、赤土等が海に大量に流出し、漁業被害が深刻化しました。これを受け沖縄県は1995年に「沖縄県赤土等流出防止条例」を施行し、1,000 m²以上の事業行為を行う際には、事前に赤土等流出防止対策を届出する義務を設けました。さらに、事業現場から排出される濁水濃度を200 mg/L以下に抑えることを規定し、条例施行後は、開発事業からの赤土等の推定流出量は減少傾向にあります。しかしながら、農地からの赤土等流出が依然として課題とされています。
 沖縄の美しい海を守るためには、包括的な赤土等の流出防止対策を推進し続けることが不可欠です。陸域での赤土等流出防止対策とSPSS簡易測定法等を用いた海域のモニタリングを並行して進め、沖縄の豊かな自然環境を守り続けます。


参考文献
1)比嘉彩也香 他、岩盤上の赤土等堆積物による着底阻害:サンゴ幼生を用いた検証、沖縄県衛生環境研究所報、第57号、pp.88-93、2023.
2)大久保奈弥、概論 サンゴとさんご礁、生物科学(上)、第67巻、4号、pp.194-200、2016.
3)大久保奈弥、サンゴは語る、株式会社岩波書店、pp.48-49、2021