アルジメーカーの開発と今後の展開について

株式会社東京久栄 井上 桂我

1. 餌料藻類培養装置ALGAE MAKER
 (アルジメーカー)の開発

 餌料藻類培養装置「ALGAE MAKER(アルジメーカー)」は、魚類や二枚貝類の種苗生産現場や、大学や水族館などの試験研究現場において、様々な微細藻類を高密度に培養するための装置として、弊社と東京海洋大学の共同研究によって開発されました。
 これまでの餌料藻類培養装置は一部の大規模水産事業所の「施設」として存在していますが、小規模事業者が入手可能な安価で手軽な培養装置は存在していません。このため小規模事業者は、アルバイトを多数雇用するなどして人海戦術で藻類を培養し、それでも不足する分を市販の高価な餌料藻類を購入して賄ってきました。しかし、少子高齢化による生産年齢人口の減少や、従業員の高齢化などといった社会構造の変化を踏まえると、現在の状況は持続可能ではありません。そこで、我々は「いつでも、どこでも、誰でも簡単に餌料藻類が作れる。」をコンセプトに高い増殖速度で高密度に至り、安価で、操作性が簡易で、小規模事業者でも扱いやすい製品を開発しました(図1)。現在までに、培養容量が25L、50L、100Lの商品化し、より大型の装置も開発を進めています。

図1 ALGAE MAKER(アルジメーカー)25Lタイプ

2. ALGAE MAKER(アルジメーカー)の特長

● 培養条件の最適化
 水温、塩分、pH、光量、CO2、エアレーション強度などの培養条件について、大学との共同研究により最適条件を定めました。水温、光量、pHを培養中に変化させることを可能としたことで、簡易操作で失敗を減らし、高い増殖速度で高密度に微細藻類を培養できます。
● 水温調節水槽の設置
 フラスコ培養、丸型水槽培養などの従来の藻類培養環境では、培養水の水温を空調で調節していました。空調では光熱費が嵩むほか、きめ細かい温度調節が難しいことが難点でしたが、本製品は水温調節機能を内蔵させ、安価に、簡単に水温を制御できるようにしました。また、本製品では培養水槽を取り囲むように水温調節水槽を配置する二重水槽構造になっています。加温や冷却を間接的に行うことで、藻類細胞へのダメージを低減し高密度培養を可能にしています。
● 滅菌工程の簡略化
 一般に微細藻類培養では、濾過海水や人工海水をフラスコと共にオートクレーブ滅菌してから用います。本製品は、増殖速度を高めたことで培養期間の短縮に成功し、バクテリア等の目的外生物が繁殖する前に藻類を収穫することを目指しています。したがって、次亜塩素酸を用いた簡易的な殺菌で培養を開始することができ、作業時間の短縮や装置の価格低減を図っています。
● 曝気システムの工夫
 本製品は曝気システムに独自技術を用いており、水槽内の効率的な水循環を実現しています(特許申請事項)。自走性がなく、放っておくと沈殿してしまう種類の微細藻類でも、安定的に培養できます。
● 機器の独立
 本製品は、市販のポンプ、チラー、ヒーターなどの機器を組み合わせて商品化しています。機器がそれぞれ独立しており、万一の際もメンテナンスや交換が容易です。また本製品は光源や水温調節機能、pH制御機構などが1台に組み込まれたユニットタイプを採用しており、電源と海水があれば空調設備のないような場所でも微細藻類を培養することが可能です。
●オリジナル株(キートセロス)の樹立
 キートセロスは、二枚貝、ウニ・ナマコ、甲殻類の種苗に必要なエイコサペンタエン酸(EPA)を大量に含んでおり、種苗生産現場で多く利用されています。弊社でもキートセロスの培養試験を行い、これらに最適な光、塩分、水温、培地、pH等の最適条件を特定し、高速・高密度培養可能な株の樹立に成功しました。(図2)

図2 オリジナル株(ISG2-2)

〈オリジナル株の特徴〉
●サイズ:約 8μm ●培養期間:3~5日
●増殖速度:最大 7.3day-1(世界最速レベル)
●最大密度:約2000万細胞/mL(図3)

図3 細胞密度の推移(オリジナル株)

3. デモ機による実証実験

 実用化に向けてデモ機を水産現場に貸与して実験していただき、装置の性能を従来の方法と比較しました(図4)。キートセロスの培養において、本製品は従来の方法(フラスコ培養や丸型水槽培養)と比較して4~8倍の高密度培養を可能にし、短期間(3~4日)で1000~2000万細胞/mlに達する高い増殖速度を実現しました。これにより、少量の培養で必要なバイオボリュームを確保でき、培養頻度や培養スペースの削減を可能とするほか、急な餌需要にも柔軟に対応できます。また、培養期間や培養量を抑えられることで光熱費(LED、チラー、ヒーター等)を削減し、培養条件を自動調節する機能によって作業時間を短縮できました。(表1)

図4 貸し出し現場での稼働風景

表1 従来の培養方法とALGAE MAKERの比較
※水産現場では一般に三角フラスコか丸型水槽で餌料藻類を培養している(ヒアリング結果)
※1トン水槽40基で二枚貝を種苗生産する場合の比較(社内検討)

4. 今後の展開

●装置の高度化
 装置を貸し出して実験を行っていただいた結果、当初期待していたメリットを確認できた一方で、いくつかの改善点や課題が明らかになりました。以下は、今回の実証実験を通してご指摘いただいた主な課題です。
 ● 洗浄の簡易化 
 ●装置の軽量化
 ● 濃縮装置の開発
 ●コンタミネーションの低減
 ●連続培養システムの開発
これらの課題を受けて、現在、装置の改良に向けた取り組みを進めています。
●カイアシの大量安定培養への挑戦
 日本では1960年頃からマダイを対象に魚類の種苗生産が始まり、1965年頃から本格的にマダイの種苗生産が行われるようになりました。当初は二枚貝の幼生や天然のカイアシ類が初期餌料として用いられていましたが、1963年にシオミズツボワムシの有用性が発見されて以降、ワムシの給餌が主流となりました。ワムシは培養が容易である一方、DHAやEPAなどの海産魚類の仔稚魚の発達に不可欠な必須脂肪酸の含有に乏しいという欠点があり、栄養強化剤などによって不足する栄養を補ってから仔稚魚に給餌されます。カイアシ類はワムシに比べて培養の難易度が高いものの、魚類の生育に必須なDHAやEPAを多く含み、ワムシとは異なる独特な遊泳によって仔稚魚の嗜好性を刺激することが知られています。ワムシは魚種や仔稚魚の成長段階によって、SS~L型と呼ばれる複数の株を使い分ける必要がありますが、カイアシ類は成長過程で様々なサイズをもつため、魚種や成長段階を問わず、1種類のカイアシで種苗生産を行うことが可能です。しかし、カイアシ類の培養は難易度が非常に高く、大量かつ安定的な培養が大きな課題となっています。私たちはその課題を解決するために、ALGAE MAKERの開発で培った微細藻類の培養技術を活用して、カイアシの大量安定培養方法の確立に向けた研究を進めています。現在は人工海水での安定的な培養に成功しており、今後は餌として与える微細藻類の種類によってカイアシの密度や栄養価がどのように変化するのかを確認する予定です。

図5 カイアシ培養の様子(左)と培養中のカイアシ(右)