1. はじめに
CAINESJournalNo.2(2021)およびNo.4(2023)では、ロボセンの開発の歩みと養殖場への適用に向けた取り組み、付帯装備の高度化について紹介しました。
現在は、水質環境観測ロボット船として商用モデルが構築されたロボセンを活用し、養殖漁場など水域利用性が高い沿岸海域の水質環境観測を自動で行うことにより、きめ細やかな水質環境のデータを労働的負荷を低減するかたちで取得しており、漁業や水産養殖の持続的な管理への貢献を目指した活動に取り組んでいます。
本稿では、ロボセンによる環境観測技術と応用展開について紹介いたします。
2. ロボセンの環境観測技術
ロボセンの最大の特徴は、4つの船体で構成している点にあります。それぞれの船体に独立して制御可能な推進器と回頭機構を装備しており、この機構によって、4つの船体の推力と回頭角度を個別に制御して自動航行中の針路変更や航路補正を行うため、風波の影響下においても、精度の高い自動航行が可能となっています。
また、観測など定点での作業中に風波の影響で位置ズレが生じることによる情報の不正確さを防ぐため、4つの船体を非並行に配置することで移動抵抗を大きくし、推進器のスラスト制御と組み合わせることで外乱による位置ズレを発生し難くして定点保持する技術を備えているため、精度の高い情報を取得することができます。
さらに、均一ではない水底の形状や水深に対応するため、観測点到達後は船体下部に装備している音響測深器でピンポイントかつリアルタイムな水深を計測し、測深結果に応じて水質計測器の降下深度を自動で判定するため、水質計測器の着底を防止し、着底して底質が巻き上がることで起こる水質環境の撹乱を防ぎ、正確な水質データを取得することができます。
2.1 自動水質環境計測(広範囲観測)
近年は、定点観測ブイの導入が進み、人が調査に行かずとも水質環境情報をリアルタイムにモニタリングできるようになってきました。ロボセンによる水質環境観測では、自動航行による広範囲観測を行なうことにより、定点観測ブイで得られる点の情報を線としてつないで、対象海域の水質環境を面的に把握することを目的としています。
また、人力観測で使用する船外機では、推進機の大きな動力が働くため、観測点周辺で水質環境の撹乱が発生し、特に表層部分においては正確な水質データを取得することが難しくなります。一方、ロボセンは直径100mmと小さなプロペラで推進しているため、大きな撹乱は発生せず、表層部分においても正確な水質データを取得することができます。(図2)
なお、観測ルートの設定方法について、ロボセンの船速は約1.0m/sで、約6時間の連続航行が可能なため、自動航行だけでは約21.6kmの航行が可能となります。観測ルートを設定する上では、観測する点数や観測点同士の間隔、1点あたりの観測時間を考慮して、1日の観測範囲を算出します。
2.2 自動水質環境計測(高密度観測)
河口付近などにおいては、河川からの出水の影響をきめ細かく把握するため、観測点の間隔を狭くし、面的な高密度、三次元的な高密度で観測を行います。
図3の事例は、降雨直後の河口付近において約30mの間隔で観測点を設定したときの塩分の分布を示しています。水面から-20cmの河口前では塩分がかなり低くなっており、扇状に高くなっていることが分かります。また、水面から-40cmにおいては、その分布の様子が異なってきていることを確認することができます。
このように、高密度観測は、観測ルートの設定時に広範囲観測と組み合わせることも可能で、局所的な高密度観測と面的に広範囲な観測を行うことにより、観測対象海域全体における水質環境の違いや水深による水質環境の違いを把握することができます。
2.3 水深測定
( シングルビーム音響測深)
ロボセンによる水質環境観測では、潮汐による水深の変化や均一ではない海底の形状に対応するため、4隻のうち1隻(1号機)の船底部にシングルビーム式音響測深機を埋め込み、観測点ごとの水深をピンポイントかつリアルタイムに把握する機能が搭載されています。この技術を応用展開し、ロボセンの精度の高い自動航行ときめ細かな航路補正技術と組み合わせることにより、自動航行中における直下の水深データを測定することができます。
2.4 海底状況調査
( サイドスキャンソナー)
シングルビーム音響測測深器を搭載したノウハウを活用し、異なる1隻(4号機)にサイドスキャンソナーを搭載しました。
サイドスキャンソナーは、音波(音響パルス)を発振して、海底地形の凹凸や立体物に反射する時の、反射強度の違いを色の濃淡で表現します。音波のパルス幅を利用して反射の強弱を取得しているため、細かい起伏や海底面の底質を表現することができ、海底面の底質(岩、砂、泥、浮泥等)の分布を測定することができます。(図4)
また、音波が立体物に反射すると、その後方には音波の影ができるため、影の長さから立体物の大きさを推測することも可能です。
ただし、海底の状況をマルチビームよりも詳細に調査することができますが、二次元探査であり水深値を取得することはできません。
3. 適用領域の拡大と今後の展開
ロボセンは特定機器専用ではなく、水上プラットフォームとして搭載機器を特定化しない汎用性があり、水中の水質環境観測のみならず表層観測や水中撮影、水深測定や海底状況調査を行なう複合観測のプラットフォームとして、水産分野に囚われない多分野で活躍の場を広げつつあります。
例えば、治水や貯水を目的としたダム湖においても地球温暖化による影響が顕著になってきており、アオコの大量発生やそれによる悪臭など、特に水源となるダム湖については地域住民の生活にも影響を及ぼしかねない状況となっています。その対策として、ダムを所管する自治体によっては、取水口付近を中心に水質改善装置(曝気装置など)の設置や、水質環境を観測する定点観測装置を設置されているところがあります。
ロボセンが海で培ってきた自動水質観測技術をダム湖に展開することにより、ダム湖における広範囲な水質環境の把握や水質改善装置の効果の波及状況を把握することができるため、地域の人々の安全で安心なくらしの実現にも寄与していきたいと考えています。
また、さらに新たな適用領域の拡大を図るため、港湾土木工事現場でのデモンストレーションを実施し、施工による水質環境への影響調査や施工後の出来形確認などにも挑戦しています。
港湾土木工事は、会社設立以来続いている弊社の主力事業で、ロボセン開発の創案は自社が施工する港湾土木工事における付加価値向上、他社との差別化を目指したことがきっかけでした。大阪府立大学(当時)二瓶先生との出会い、CAINESの皆様の出会いがあり、水産養殖のフィールドで育ってきたロボセンですが、弊社主力事業の分野においてもも貢献できる姿に近づいてきていると感じています。(図5)
4. おわりに
ロボセンは、水上における複合観測のプラットフォームとして、さらなる進化を求めて新たな機能拡充の開発に現在進行形で取り組んでいます。
また、2020年に採択された経済産業省の補助事業「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」での成果が認められ、経済産業省近畿地方整備局の「関西ものづくり新選2025」に選定されました。そしてさらに、その枠組みで大阪・関西万博の「TEAM EXPO 2025」共創チャレンジに参加することになりました。展示をおこなうTEAM EXPO パビリオンでは、ロボセンが取り組む社会課題解決への貢献活動を世界の人々に向け大いに発信してきたいと考えています。(図6)