三島食品によるスジアオノリの安定供給への取り組み

三島食品株式会社 永田 千夏

走島海洋資源開発センター 全景(左:9tタンク、右奥:1tタンク)

1. 三島食品と陸上養殖

 三島食品は、ふりかけやレトルト食品を製造販売している食品メーカーです。三島食品といってもピンとこないかと思いますが、赤しそふりかけ「ゆかり®」(図1)といえば、なじみのある方もおられるのではないでしょうか。
 弊社の主力商品のひとつが「青のり」(図1)です。一般に青のりとして使用されている海藻は、スジアオノリ・ウスバアオノリ・ヒラアオノリがありますが、最も美味しく香りが良いとされるスジアオノリだけを原料として使用しています。自社で入札権を持っているため、上質なもののみを直接買い付けています。

図1 弊社商品

 スジアオノリは徳島県の吉野川産が主力となっていますが、近年の温暖化による水温上昇や栄養塩不足の影響から、出荷量は激減しました(図2)。2019年の出荷量は最大時の1割以下となり、それに伴い価格も高騰しました。このあおりを受けて、弊社でも原料の確保が難しくなり、2020年6月には商品を休売せざるを得ない状況になりました。こうした状況を予知していたかのように、2006年から会社方針としてスジアオノリの安定供給に取り組み始めていました。藻類の研究という弊社にとっては未知の分野でしたが、そこから数年間、研究ベースでの調査・試験を実施してきました。

図2 徳島県産スジアオノリの出荷量と価格(自社調べ)

 そして縁あって2015年4月より、高知県室戸市の指定管理業者として、「室戸海洋資源開発センター」の施設運営を開始し、スジアオノリの陸上養殖が始まりました(図3)。「海洋資源開発センター」と名付けたのは、将来的にスジアオノリ以外の藻類も養殖が実現可能な研究施設を目指していたためです。養殖には、水深約374mから取水した室戸海洋深層水を使用しています。海洋深層水は、低温安定性、富栄養性、清浄性という特徴があります。年間収穫量は約3(t 乾燥重量)で、弊社が使用する量としてはまだ不十分な状況でした。そこで、2020年6月に、「走島海洋資源開発センター」を設立しました(図4)。走島は広島県福山市の鞆の浦沖に位置し、島の北西部にある広島県が埋め立て整備した事業用地の一部を借用して設備しました。屋外に1tタンクを90基、9tタンクを80基設置しています。年間収穫量は約5tとなります。

上:図3 室戸海洋資源開発センター
下:図4 走島海洋資源開発センター

2. スジアオノリの陸上養殖方式について

 弊社では地下海水を使用し、かけ流し方式で陸上養殖を行っています。かけ流し方式でも夏場と冬場では水温が異なり、生産量を確保するためには水温変動に適した株の選定が重要になります。選定した株を季節や水温の変化に応じて使い分けながら、年間を通して養殖を行っています。スジアオノリの生長には15~20℃が適温とされており、夏場の高水温、または冬場の低水温への耐性がある株の確保は各社の課題として取り組んでいます。
 養殖工程は、スジアオノリの藻体から胞子を放出させ、採取することから開始します。胞子は発芽体が膜状になるまで培養し、その発芽体集塊膜を破砕し種苗を作製します。この種苗の作製法は「高知式」と言われる高知大学の特許技術であり、全国各地の養殖事業所で採用されています。 屋内で一定の大きさになるまで生長させた後、屋外の養殖段階へと進んでいきます。スジアオノリの生長に伴い、藻体が高密度にならないようにするためにタンクサイズをスケールアップしていきます。藻体がタンク内で過密状態になると生長が抑制されてしまうため、投入する種苗の密度調整も重要な管理項目になります。屋内の2Lビーカーから30Lタンク、100Lタンクを経て、屋外の1tタンクへ移動し、最終は9tタンクで収穫します(図5)。種苗から収穫までの期間は約2ヶ月になります。

図5 陸上養殖方式 左:2Lビーカー、中:100Lタンク、右:9tタンク

 収穫したスジアオノリは(図6)、洗浄・脱水・乾燥までの一次加工を行い、出荷します。加工委託業者にて、二次乾燥・粉砕をしたものが商品の原料となります。養殖したスジアオノリは、全て弊社商品の原料として使用しています。

図6 収穫作業

3. IoT導入による
 データ収集と品質評価の取り組み

 通年でのスジアオノリの養殖が可能となりましたが、品質や収穫量が安定していないことが課題でした。これらは、気温、水温など様々な要因により変動します。急激な温度変化などの環境ストレスがあると、藻体が成熟して消失や色抜け、また、「ガリ」と呼ばれる硬い原料に仕上がることがあります。そこで、養殖に影響する要因を把握するため、環境データの収集を開始しました。9tタンクと1tタンク各1基に、水温計、流量計、pH計を取り付けました。加えて、外気温計と日射計を設置し、測定結果はトレンドグラフとして、またはデータを抽出して利用できるようにしました。これにより、温度と日間生長率を比較するなど、様々なテストに取り組めるようになりました。今後は環境データと収穫量、品質のデータを紐づけることで、養殖に影響する要因を特定していきたいと考えています。
 海水だけでは不足している栄養素は、液肥として1日に2回投入しています。液肥の濃度は投入の前後での差が大きく、さらに、施設休日には液肥が投入できないため、タンク内の栄養素は枯渇してしまいます。この問題点を改善するために定量ポンプを設置しました。井戸からの配管に設置することで、1台の定量ポンプで複数のタンクに液肥が供給できます。現在は、1tタンク15基、9tタンク24基に、24時間液肥を供給できるようになっています。
 スジアオノリといえば、青みがかった深緑色、磯を感じる特徴的な香りが最大の魅力です。しかし、官能で評価するのは難しく、長年の経験が必要です。誰でも評価できるように、官能評価の数値化に取り組んできました。色の評価については、熟練者の評価を基にした色評価システムを開発しました。小型の測色機でスジアオノリを測定すると、グレード値として官能評価値を返します。この色評価システムは、間もなく工場での品質管理に導入できそうです。一方、香りの主成分はDimethylsulfide と考え、測定方法や官能との相関などを調べています。現在は、他の香気成分も関与しているのではないかと、研究を進めています。

4. 陸上養殖の今後について

 弊社がスジアオノリの陸上養殖を始めて10年がたちました。残念なことに、室戸海洋資源開発センターは、指定期間満了に伴い閉鎖となりました。これからは、走島での安定した収穫量が求められます。一方、徳島県産スジアオノリの収穫量は、2019年以降回復傾向にあり、高騰していた価格も落ち着いてきました。これまでの陸上養殖では収穫量を目標に掲げてきましたが、これからは今以上に品質面が重視されると予想されます。室戸で培ったノウハウやIoTを活用しながら、今後もスジアオノリの陸上養殖を研究してまいります。