陸上養殖水質監視システム(ISARI®システム)の活用事例報告

JFEアドバンテック株式会社 恩地 啓実

1. 開発背景

 近年、水産物の需要拡大などによる天然魚類資源の減少や食の安全に対する意識の変化などから、養殖漁業の需要が増えてきています。その中でも環境への負荷が小さい陸上養殖は、持続的な食糧需給や海域環境の保全の観点から、SDGsとしても注目を受けています。特に陸上養殖では洋上養殖と比べて水質を調整することが容易であるため、効率化を実現しやすいといえます。
 そのような状況の中で急成長をみせる養殖事業ですが、養殖業者の水質監視に対する意識は様々です。ポータブルの水質計などで、1日数回(朝と夕方だけなど)測定するだけで問題ないと考えている事業者もいますが、水質は気温などに伴う変化や養殖魚の活動によって日変化が大きいため、1日数回の観測では養殖魚の成育環境を十分に把握できません。一方、陸上養殖事業先進国である海外(主に北欧)から養殖に関する技術や装置などを輸入し、水質監視システムも併せて海外製を採用されているケースも見られます。しかしながら、海外製の水質監視システムを使用した場合、修理やメンテナンスなどに数カ月~長い場合は半年以上もの時間がかかるため、その期間の観測が停止してしまい持続的に効率よく養殖を行うことが出来なくなるという問題などがあります。
 このような背景を受け当社では、国産メーカーである強みを生かして、使いやすくて堅牢で安心な機器、メンテナンス性が良い機器を比較的安価に提供することを目的に開発を進めました。

2. ISARIシステムの特徴

2.1 開発のコンセプト

 現在国内で導入されている水質監視システムの中には、リアルタイムデータの閲覧のみで取得したデータが保存されないシステムが多く活用しにくいとの意見がありました。そこでシステム開発時には、取得したデータを接続しているパソコンにCSV形式で自動的に保存し、ユーザーが連続的なデータを活用して効率の良い養殖に利用しやすいシステムを開発しました。さらにPCに保存したファイルをクラウドにアップすることで、クラウド上で閲覧をするなどの利用も可能となります。

2.2 水質測定システムの特徴

 ISARIシステムは制御部と水質センサー、表示するためのパソコンからなるシンプルなシステムです(図1、2)。制御部とパソコンは有線LAN、無線LANのいずれでも接続可能であり、パソコンにてリアルタイムに数値と時系列グラフを確認できます。観測データは接続しているパソコンにCSVファイルとして保存するとともに、バックアップとして制御部内のSDカードにも保存されます。また回線契約※を行うことで遠隔地などからパソコンを介さず、観測データや警報発報を指定したメールアドレスに送ることが可能です。※インターネット利用時は不正アクセスなどのセキュリティー対策が必要です。

図1 陸上養殖監視システム(ISARIシステム)

図2 ISARIシステム構成例

 1基の制御部に水質センサーは6本まで接続可能であり、水温と溶存酸素(DO)を測定するデジタルDOセンサ
ー(AROf-CAD)、水温と塩分(電気伝導度から算出)を測定するデジタル水温塩分センサー(ACTf-CAD)、pHを測定するデジタルpHセンサー(APHf-CAD)、pHとORPを測定するデジタルpH・ORPセンサー(APHRf-CAD)の4種類を自由に選択できます。さらに、デジタル水温塩分センサーとデジタルDOセンサーを組み合わせて使用することでDO飽和度(%)からDO濃度(mg/L)を算出する際に、デジタル水温塩分センサーの塩分値を使用して精度よく求めることができます。また本システムは拡張が可能で、1基の制御部(親機)に制御部(子機)4基まで接続でき、最大で1システムあたり30本の水質センサーが接続可能となります。
 センサーの筐体部にはチタン2種や樹脂を採用しており、海水に対する腐食や劣化に強く、日々のメンテナンスとしてはセンサーに汚れなどが付着した際に、センサーを付属の専用ブラシなどを用いて清掃するだけとなっています。一般にDOセンサーはこまめなキャリブレーションが必要となりますが、デジタルD O センサーに使用している当社独自のRINKO®膜は長期安定性に優れており、年数回のキャリブレーションで精度の良い観測が可能です。さらに専用キットを用いてユーザーでキャリブレーションや膜交換が可能なため、当社に送付しての再校正が不要となり、メンテナンスにかかる費用の削減やメンテナンスによる長期の欠測期間が短縮できます。また万が一の故障時にも国内工場で点検修理を行うため、迅速な対応が可能です。

3. 活用事例

3.1 活用事例①:
ヤイトハタ飼育施設(沖縄県)例

 図3は沖縄工業高等専門学校様がヤイトハタ飼育時の水質監視に使用頂いているデータです。二水槽にD Oセンサーと水温塩分センサーを各1台設置されています。各水槽の飼育条件は同じですが、水質計を設置した箇所が異なり、水槽Aでは取水口周辺に設置され、水槽Bでは排水口周辺に設置されています。水槽Bでは日較差が最大で20%以上あり、夕方頃(15時~16時)に低下する傾向が確認されました。原因としては、夕方前に水を抜いて清掃を行われており、水量が減少したことで一時的に魚の密度が上昇し、DO飽和度が低下していたと推測しています。連続観測することで初めて清掃中のDO飽和度低下に気付き、清掃時の対策を考えることができたので良かったとのご意見を頂きました。一方、水槽A(取水口)でも最大で10%程度の日較差は確認されましたが、水槽B(排水口)と比べると変化は小さいことがわかります。これは取水の影響を強く受け、DO飽和度低下を観測することが出来なかったと推測しています。

図3 DO飽和度の変化(2023年5月8日~15日)

3.2 活用事例②:
シロギス飼育施設(広島県)

 図4は株式会社クラハシ様がシロギス(びんごの姫®※)飼育時の水質監視に使用頂いたデータです。設置場所による差を確認するために、水槽内の取水口前・排水口前・エアー前の3カ所にDOセンサーを設置し、常時監視する場合の設置場所の検討に活用頂きました。※『びんごの姫』は福山大学様が商標登録し、株式会社クラハシ様と共同でブランド化された養殖シロギスです。
 いずれの設置場所においても周期的な変化が確認され、日較差は10%程度あり夕方に低下する傾向が確認されました。また、水槽内の設置個所の違いを比較したところ取水口前とエアー前は概ね同じ値で、排水口前は他の2カ所に比べ2%程度低い値でした。設置場所による傾向の差はありませんでした。これらの結果から、飼育魚の安全を考え、DOセンサーは排水口前に設置し常時監視することになりました。

図4 観測場所とDO飽和度との関係(2023年9月17日~24日)

3.3 活用事例③:スマ飼育施設

 図5は飼育密度を3段階に変えて飼育されているスマ飼育水槽で取得頂いたデータです。飼育密度とDO飽和度との関係を確認し、適正な飼育密度を検討するために活用頂きました。
 飼育密度(中)と飼育密度(低)ではDO飽和度に大きな差はなく、95%以上を維持できており、飼育密度(中)以下であれば、DO環境としては問題ないことが確認できました。一方、飼育密度(大)では90%以下にまでDO飽和度が低下しており、飼育密度とDO飽和度との関係が明瞭なデータを取得出来ました。

図5 飼育密度とDO飽和度との関係( 2023年9月5日~9日)

4. これからの展望

 現在、我が国におけるスマート養殖の取り組みは始まったところであり、研究機関や先進的な養殖漁業者によって、水質管理と生産性の向上に関する実績を積む段階であると考えています。今後実績が蓄積され、水質監視の重要性が高まることが期待されます。その中で、国産の水質センサーであることのメリットを活かし、安心して使用できる計測機器を提供するとともに迅速なアフターメンテナンスにより、陸上養殖事業の品質向上に貢献したいと考えます。