料理とのペアリングを目的とした日本酒の開発について

広島県立総合技術研究所 大土井 律之

 当センターは、広島県立総合技術研究所の8センター(保健環境、工業、農業、畜産、水産、林業)の中で、食品製造に関する事業者の既存製品の改良、新製品開発、生産性向上等を支援し、事業者等の付加価値向上による県経済の持続的発展に貢献することを目指しています。今回は、平成25(2013)~27(2015)年の3年間実施した、事業者のニーズ起点による、料理とのペアリングを目的とした日本酒の開発について紹介します。

1. 広島名物に合う
 新カテゴリ清酒の開発について

 研究課題立案時の2012年のアルコール市場のトレンドは低アルコール飲料へと移行しつつありました。体に負担のかかる高いアルコール度数の飲料を敬遠し、軽く酔う雰囲気を楽しみたいというニーズに対応し、ハイボールや、アルコール度数3%のサワーやワインが新商品として発売されていました。日本酒についても、氷を入れた日本酒ロックという飲み方を紹介したり、灘・伏見の大手メーカーがアルコール濃度5~7%程度の新商品を相次いで発売したり、飲みやすい日本酒という新しいカテゴリを形成しつつありました。
 2011年に当センターが広島県酒造組合と共同で実施したアルコール消費者620名を対象にしたアンケート調査でも、アルコールは消費するが日本酒を飲まない理由の第1位が「悪酔いしそう」(回答率50%)、第2位が「アルコール度数が高い」(同39%)とあり、日本酒による酔いを軽くする必要を感じました。
 これらの市場動向を受け、広島県の食と日本酒のブランド力向上によって、広島の食文化の発展・創造への寄与とその海外展開を目指し、県外大手企業の商品とは異なる、広島の食と連携した商品の開発を目指しました。開発技術は次のとおりです。
①酒質設計技術:醸造ではなく、糖、有機酸、アルコール等の調合によって日本酒の香味を再現する技術を確立した上で、ソムリエ等による酒質設計チームと、広島の名物料理と相性の良い低アルコール日本酒の酒質(香味)を決定[図1、2]。

図1 酒質設計によるマーケットイン型商品開発

図2 広島の名物料理と相性の良い低アルコール日本酒の基本酒質

②設計した酒質を再現する醸造技術:設計した酒質を再現するために、有機酸高生成酵母、高グルコアミラーゼ活性麹菌、乳酸菌等を使用した既存の日本酒の枠にとらわれない幅広い香味からなる醸造法を開発。なお、醸造方法についてはノウハウとして秘匿し、技術移転先の企業との契約を締結して技術移転を実施しました。
 この研究開発の結果、6種類の日本酒の醸造方法開発に取り組み、延べ13社に対して技術情報開示を行い、6点の商品化と、1点の既存商品の改善に貢献しました。
 商品化された6商品のうち、現在も販売継続が確認されている酒は次のとおりです。[図3]

図3 現在販売されている商品

2. 最近の開発事例

 前述の開発技術を活用し、中国市場向け純米酒「と」の開発に携わりました。本商品は、中国での日本酒販売を行っている株式会社SakeRDが商品企画及び販売を担当し、外務省在上海日本国総領事館領事(現・熊本国税局課税部鑑定官室主任鑑定官)の宮本宗周氏が香味の設計を行いました。新商品のコンセプトは、中国全土で人気の高い唐辛子を効かせた辛い料理に合う酒であり、現地料理人の意見を参考にした酸味を軸にした味わいでした。上海と広島を繋ぐWeb会議を重ね、酒質は次のとおり決定しました。



□ 香りの主体は酢酸イソアミル(バナナのような香り)。
□ 熟成した香りを極力抑えて、スッキリ感を強調。
□ アルコール度数は12%弱。
□ 味は甘味を少し強めてボディ感を付与し、水っぽくならないように。
□ 酸味は乳酸を抑え、クエン酸・リンゴ酸を増。
□ 口に含んでから時間経過とともに、果実香+甘味→酸味→キレと感じるように。



 この決定を受けて、当センターと醸造を担当する広島県東広島市安芸津町の株式会社今田酒造本店は、前述の調合によって日本酒の香味を再現する技術を活用して、試作と試飲を繰り返し、甘味に関係するグルコース濃度や、酸味に関係する各種有機酸の濃度の目標値を設定しました。さらに、その目標値を実現するために、使用する酵母及び麹菌、原料米の種類、精米方法、精米歩合や、3段仕込みの仕込み配合、醸造温度等を決定しました。通常、日本酒を醸造する場合、商品の大まかな方向性はありますが、酒の複数の成分値を目標として設定し、それと一致させるように醸造する経験は少ないのが現状です。今回の醸造では、目標値の達成にこだわり、試行錯誤を繰り返して2023年に完成しました[図4]。現在は、中国のみでの商品展開ですが、今田酒造本店の富久長( ふくちょう)Bon Times Style:Bが、「と」に近い酒質です。オンラインショップ等で購入可能ですので、唐辛子が効いた料理とのペアリングをぜひお楽しみください。

図4 中国の唐辛子を効かせた辛い料理に合う日本酒「と」(出典:株式会社今田酒造本店)