農水一体型サスティナブル陸上養殖への挑戦

琉球大学理学部 竹村 明洋

1. はじめに

 国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界の漁業と養殖業をあわせた生産量は増加しており、2022年の生産量は2億2300万トンを超えています(図1)。その内容を見てみると、1980年代後半以降の漁業の漁獲量は横ばい傾向ですが、同時期の養殖業の収穫量は急速に伸びています。アジアの新興国の経済発展にともなう旺盛なタンパク質需要を、海面と内水面の養殖業で生産される魚介類で補っている構図が浮かび上がってきます。それでは、我が国はどうなっているのでしょうか。我が国の漁業と養殖業をあわせた生産量は、1984年の1282万トンをピークに減少し、2022年には392万トンになっています(図2)。実に、漁業と養殖業をあわせた生産量がピーク時に比較すると1/3に減少しているのです。これには様々な要因が挙げられますが、主な要因としては漁業就労者や漁船減少等に伴う生産体制の脆弱さに加え、海洋環境の変化や水産資源の減少等が関係すると指摘されています。世界のトレンドと異なり、我が国では養殖業の生産量が伸びているわけではありません。これは、消費者ニーズの変化、人手不足、コストの問題、資源管理の課題などの様々な要因が複雑に絡み合っていることが考えられます。しかしながら、天然資源に頼る漁船漁業には資源管理や資源保護の観点から限界があり、環境に配慮した持続可能な水産業の発展が望まれるようになっています。我が国でも養殖業への関心は確実に高まっています。

図1 世界の漁業・養殖業生産量の推移(令和5年度水産白書より)

図2 我が国の漁業・養殖業生産量の推移(令和5年度水産白書より)

2. 陸上養殖とは

 養殖の形態は海域の一部に網を設置して行う海面養殖と、陸地に設置した人工的な環境で魚を養殖する陸上養殖に大別されます。また、陸上養殖には大きく二つのタイプがあり、それらは新鮮な水を陸上に設置した水槽に供給して魚を育てて使用後の水を環境に排出する掛け流し式と、飼育に利用する水を浄化しつつ循環して利用する閉鎖循環式です。前者は、ランニングコストを抑えられるのに対し、設置場所が沿岸域に限られ、排出した飼育水が環境の汚染源となるリスクがあります。一方、後者はランニングコストが高くなりますが、環境を汚染することなく、設置場所に制限がありません。いずれの場合でも、陸上養殖は飼育環境を人為的に管理することができるため魚の生育に適した環境を維持できたり、天候や海洋環境に左右されにくいため安定生産が可能であったり、生産する魚のトレーサビリティーが明確だったりと、多くのメリットがあります。また、漁業権の制約をうけにくいことから、企業では新規事業の一つとして、自治体では町おこしの手段となり得るため、それぞれが特徴を出しつつ差別化して陸上養殖に取り組む事例が増えています。

3. 琉球大学の取り組み

 科学技術振興機構の共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の支援を受け、琉球大学では陸上養殖プロジェクト(資源循環型共生社会実現に向けた農水一体型サステナブル陸上養殖のグローバル拠点)を進めています。閉鎖循環式陸上養殖の特性を活かし、農業との親和性を高めた農水一体型システムの開発を進めています。すなわち、(1)農業生産から出てくる廃棄物(副産物)を養殖魚のための餌に加工する、(2)加工した餌を魚に与えて養殖対象魚類を早く大きく育てる、(3)養殖魚から排出される糞や食べ残した餌を堆肥化して農業生産で利用したり、排泄物に含まれるアンモニアがバクテリアによって分解された硝酸塩をアクアポニックスシステムで利用したりする、の(1)~(3)を循環させることを考えています。また、農水一体型のシステムを、再生可能エネルギーを利用してランニングコストを下げたり、情報技術を利用して徹底的な自動化をしたりすることを計画しています(図3)。私たちはこの循環システムを「沖縄モデル」と呼び、この沖縄モデルを沖縄県内外から海外へ展開したり、沖縄モデルで生産される生産物を高付加価値化したりすることを目論んでいます。さらに沖縄モデルを新しい一次産業として展開し、次世代を担う若い人たちが興味と志を持って参画できる仕組を作っていきたいと考えています。

図3 沖縄モデルで目指す農水一体型循環システム構想

 このプロジェクトを進めるために6つの研究課題を設定しています(図4)。研究課題1(無駄を省いた海洋生物の生産技術開発)は水産養殖に関する研究で、飼育環境制御による成長の最適化、廃棄物の飼料化、微細藻類の水産利用、未病・疾病対策、シミュレーションによる成長推定に取り組んでいます。研究課題2(物質循環型農水一体養殖技術開発)は農業に関する研究で、適用可能な耐塩性植物の選定、塩水アクアポニックス技術の確立、塩水水産区からの排出物の農業利用技術の確立に取り組んでいます。研究課題3( 再生可能エネルギー100%による電源供給)は工学的観点からの研究で、最適な再生可能エネルギー発電設備容量を決定するための多目的最適化手法の開発、電力供給に支障を生じない最適制御手法の開発、経済性・環境性や電力供給信頼性を確保できる最適な電力供給方式の検討、を行っています。研究課題4(ICTを活用したスマート陸上養殖技術の開発)は情報技術の研究で、IoTセンサーデバイスの活用による数値化、飼育状況のモニタリング、デジタルツイン技術の活用による遠隔制御、を行っています。研究開発5(沖縄モデルを実現するシステム技術の開発)は養殖システム開発であり、沖縄モデルの性能割付と目標設定、全体最適化によるシステム設計、戦略的特許による技術パッケージ化、ビックデータを活用したシステム最適化、遠隔化・自動化による飼育システムの適正運用、に取り組んでいます。研究開発6(社会実装のためのビジネスモデル開発)は、機能的価値と情緒的価値による高付加価値化、地域の特性に合わせたマーケティング、技術パッケージのライセンシング、人材育成ビジネス、ビッグデータの利活用によるマーケット分析、に取り組んでいます。本プロジェクトでは、社会実装からバックキャストしながら必要な研究課題を選定しつつ進める手法をとって、沖縄モデルを社会に定着させることを加速させようと考えています。

図4 琉球大学のCOI-NEXTプロジェクトにおける研究課題図4 琉球大学のCOI-NEXTプロジェクトにおける研究課題

 これらの研究は、私たちが研究の場として整備したいくつかの施設を利用して行われています。そのうちの一つは中城村養殖技術研究センター(NAICe)です。NAICeは、プロジェクト開始当初から設置されている施設で、陸上養殖技術の見える化・見せる化をしています(図5)。琉球大学キャンパス内にも施設を新設し、琉球大学養殖技術研究センターとして運用を開始しています(図6)。これらの施設において、沖縄の重要養殖対象魚類であるヤイトハタをモデルとしながら沖縄モデルの構築を図っています。

図5 中城村養殖技術研究センター(オリオンビール提供)

図6 琉球大学養殖技術研究センター(農水一体システム実証施設)

4. さいごに

 琉球大学の農水一体型サステナブル陸上養殖プロジェクトを進めるために、私たちは2 0年後を目指したビジョンを策定しています。そのビジョンは、「私たちは農業と水産業の垣根をとりさり、世界の若者が主役として食を育て提供する循環社会を実現する。」です。このビジョンには、「食の未来を担うのは若者達であり、彼らを中心とした資源が循環する世界を私たち世代で創り上げていく!」という、プロジェクトに関わる人々の夢と希望が込められています。このビジョンに賛同する人々の輪を広げて、プロジェクトを進めていきたいと考えています。