CAINESセミナー参加者を対象とした牡蠣食味試験結果

広島県立総合技術研究所 友國 慶子

図1 CAINES意見交換会で牡蠣の主観評価を実施

1. 牡蠣の商品特徴を数値化する
技術開発のために

 殻付き牡蠣の特徴を客観的データから数値化する取組を志して、はや3年が過ぎました[1]。この間、各省庁が公募する研究補助や助成金(競争的研究資金)に応募してきましたが、なかなか採択にこぎつけることができず、研究予算が準備できない状況が続いています。そんな中、私が所属する研究所から、少額ですが研究準備のための研究予算が付きました。というのも、競争的研究資金に応募するもなかなか採択にならないのは、私が持っている「画像から味や食感などの目に見えない商品特徴を推定する」という研究構想に対して、「本当にできるのか疑問」「ただのアイデアに過ぎない」というコメントを課題評価者からもらっており、採択にはデータを取得してみることでその可能性を示す必要があるだろうと、当時の上司が配慮してくれたわけです。そんな貴重な研究費を使ってとるデータは何にするべきか?そう。まずは画像データや分析値との関連性を確認するべく、牡蠣の銘柄に対する主観評価データを取得してみようと考えました。

2. 牡蠣の食味試験を実施してみよう
 (CAINES意見交換会をジャック!)

 味の評価に精通した方に食味試験をお願いすると、食味評価スキルは特殊技能ですので謝金がたくさんかかります。そこで、CAINESの二瓶先生(と事務局)にお願いして、CAINESセミナーの意見交換会を、食味試験会として利用させていただきました。評価すべき牡蠣の特徴(評価軸)は、既に本誌でもご紹介したとおり6項目を設定しています。試食をして、その評価をアンケート形式で回答いただく(図1)。1つ食べたら1枚回答する。1個しか食べられない人は1枚の回答を、たくさん食べる方はその個数分の回答を提出してもらう。という形式で、ほぼ、「生の殻付き牡蠣食べ放題」状態での食味試験会を行いました。試験用の牡蠣は本コンソーシアムの会員になったばかりのクニヒロ株式会社様から仕入れさせてもらい、食味試験会場と生牡蠣の調理や配膳は、こちらも会員になられたばかりの株式会社日本パーカーライジング広島工場様のグループ会社であるアル・マンドリーノ様にお願いしました。同日のセミナーでは私ども広島県立総合技術研究所の食品工業技術センターの大土井センター長に、「マリアージュ」に関する発表で「食味評価」に対する関心を高めていただき、満を持して食味試験会スタートです!

3. 食味試験とアンケート結果

 まずは、皆さんの回答状況から報告していきます。32名の回答者が参加し、延べ130件の回答を取得しました。1名当たりの回答数(食べた牡蠣の数)は1個~7個で、平均4.1個の食味評価を頂きました。普段、どれくらい牡蠣を食べているかの設問への回答状況は、表1のとおりです。年に2回から9回牡蠣を食べる人が多かったようです。普段、まったく食べない人も3名、食味試験に参加いただきました。よく牡蠣を食べている人ほど、食味試験回答数が多い傾向にあるかと思いましたが、そうでもないようです(R2=0.123)。
 みなさんの回答を銘柄ごとに分け、評価の平均値を算出すると表2のようになりました。ここでは敢えて、検体の銘柄名は伏せて記号で記載しています。
 全体的に、回答は「3」に集中する傾向があり、その分布は正規分布を示します。
 殻付き牡蠣は同じ銘柄でも個体差がありますし、食味評価をする評価者側も、感じ方に個人差がある中ではありますが、回答数が増えると各銘柄の特徴が見えてきます。例えばKoはサイズがほかの銘柄よりも大きいと評価されており、身のボリュームの評価も高くなっています。甘味や旨味はNaが高く、香りも強めに評価されています。

表1「 普段どれくらい牡蠣を食べていますか」の回答区分と食味評価した牡蠣の個数

表2 食味試験による評価結果

図2 食味試験の結果と分析値の関係

4. 分析・計測結果の取得

 翌日、食味試験に供した銘柄のうち4銘柄をクニヒロ株式会社から購入し、サンプルの計測、画像の取得と、銘柄ごとに成分分析(全糖量分析、味覚分析)を行いました。牡蠣ではグリコーゲンの蓄積が旨味や甘味の食味評価と関連性が強いことが知られています[2]。また、味覚分析装置(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製「TS-5000Z」)は、人間の食味評価に近い数値を分析によって得られる装置で、岡山県では牡蠣の食味試験結果と味覚分析結果の関連性が確認されています[3]。今回は4銘柄を対象に、分析結果と食味試験結果のうち旨味と甘味の関連性を検証しました。

5. 分析・測定結果と食味試験は
関連しているか

 全糖量分析(グリコーゲン量分析と同じ手法)、味覚分析(旨味後味)と食味試験の結果の関係を、図2に示します。味覚試験の甘味の評価結果は、全糖量分析と高い関連性を示しました(図2-(a)、R2=0.954)。また、これよりやや劣るものの、旨味に関しては味覚分析(旨味後味)の結果と関連性が確認できました(図2-(b)、R2=0.753)。甘味は旨味よりも分かりやすく、評価者も評価しやすかったのではないでしょうか。
 一方で旨味は、「旨味とはどういった味のことか?」という、そもそも旨味というものの概念が人によって違う可能性があります。本来は食味試験前に、そのあたりの意識合わせをして評価をしてもらうべきなのでしょうが、今回はみなさんの生の声(というか感覚)を反映すべく、概念的な説明等を加えることなく食味試験を実施しました。しかし、その割には味覚分析結果との関連性が高く、味覚分析装置は、そのような旨味に関する概念の個人差も含めて、評価可能な装置なのかもしれません。

6. 今後の取組

 CAINESセミナー参加者の皆さんの協力により、今回の取組で主観評価(食味試験結果)と成分分析結果等のデータを関連付けられる可能性が見えてきました。これはつまり、食味試験の結果を成分分析値で置き換えられる可能性を示しています。ただ、今回は5月の食味試験開催時に入手可能な牡蠣4サンプルを使用した検証にすぎません。この現象が、他のシーズンでも確認できれば、客観的数値(画像から得られる変数や成分分析値)を基に食味試験結果を推定する技術の開発に、一歩近づくことができます。
 同時に、私たちは成分分析等の結果と関連付けられる、画像由来の数値の開発を行っています。画像から有効な特徴量を抽出し、画像から分析結果を高精度に推定することができれば、その数値から食味試験結果を推定する技術を開発することができます。つまり、出荷中の牡蠣の画像を取得することで、その牡蠣を食味試験に供したときに得られる評価数値を推定する「牡蠣プロファイリング」の可能性が見えてきます。
 牡蠣プロファイリングシステムは、生産現場と消費者をつなぐコミュニケーションツールであり、牡蠣ブランドと産地の個性を見える化することで「差別化」に貢献します。手間をかけてこだわりを持って生産される牡蠣ブランドを、価格競争に持ち込ませないためにも、商品特徴を消費者に分かりやすく伝え、様々なブランドの中から「今日食べたい牡蠣」を選ぶ楽しさを消費者に提供することが、私たちの目標です。
 現在、画像から得られる特徴量と、成分分析結果を関連付けるための手法開発を進めています(図3)。より多くのデータセットを収集することで、主観評価(食味試験結果)の推定精度が向上し、同時にどのシーズンにおいても対応可能なシステムの開発に向けて進んでいきたいと思います。

図3 牡蠣の画像から有用変数を自動取得するプログラム



参考文献
[1] 友國慶子:水産物の商品特徴の数値化による市場拡大と競争力UPへの挑戦~殻付き牡蠣を対象に~, CAINES Journal No.5(2023) Contents
[2] Murata et al. : Correlation of extractive components and body index with taste in oyster Crassostrea gigas brands, Fisheries Science.No.86-3(2020. 5)
[3] 村山史康:岡山県産マガキにおける呈味の季節変化及び年比較,日本調理科学会誌Vol.53,No.6, 395-400(2020)