持続可能な海洋利用を実現するための
モニタリングシステムの開発株式会社

MizLinx 野城 菜帆

図1 MizLinx Monitor

1. 消えゆく海の恵みを取り戻すために

 日本は世界第6位の排他的経済水域を持つ国家であり、古くから水産業が盛んに行われてきました。しかし、近年では水産業の衰退が危惧されています。日本の漁獲量は減少し続けており、現在は約40年前のピーク時の3分の1程度の量にまで落ち込んでしまいました。また、気候変動等の影響で海の環境が変化し、今までの漁業者の経験に基づく操業が通用しなくなってきています。このように、水産資源の減少や環境変化の影響で、水産業の持続可能性が失われつつあるのです。
 それでも私たちは、豊かな海の恵みを次の世代へつなげていきたいと願っています。
 その実現に向けて、変化の激しい海の「いま」を見える化し、環境変化に柔軟に対応できる体制を築くべく、私たちは海洋IoTシステム「MizLinxMonitor(ミズリンクスモニター)」の開発に取り組んできました。

2. 海を見える化するIoTシステム MizLinx Monitor

 私たちの出発点は、学生時代の水中ロボットプロジェクトでした。「自分たちの技術で誰かの役に立ちたい」という思いから始まり、海の現場で出会った漁業者の声に耳を傾けながら開発を重ねてきたのが、「MizLinx Monito( 図1)」です。

2.1 MizLinx Monitorとは

 「MizLinxMonitor」は、海中の環境変化を可視化し、沿岸環境モニタリングに活用できるIoTシステムです。水中の状態を高頻度かつ高解像度で取得・蓄積し、現場の判断や作業の最適化に貢献することを目的としています。ラインナップは、設置型の「ブイタイプ」と、携行可能な「ハンディプは、養殖場や定置網漁場での長期間の連続観測に、ハンディタイプは生物分布の調査など、現場を移動しながら短時間で情報を収集する用途に適しています。どちらのタイプも、取得したデータはクラウドへ自動送信され、スマートフォンやPCからいつでも確認ができます(図2)。専門的な知識がなくても簡単に扱えるインターフェースで、誰もが海の様子を「見える化」できる仕組みとなっています。

2.2 MizLinx Monitorの特徴

◆特徴① 水中の状況をリアルタイムに撮影
 水中の様子を高解像度カメラでリアルタイムに撮影し、クラウドに自動保存します。撮影された映像はスマートフォンやPC上で遠隔地から確認することができ、現場に足を運ばずとも海中の変化を把握できます。これにより、藻場を食い荒らすガンガゼなどによる「食害」の様子や、魚の動きといった映像を記録することで、現象の発生原因やタイミングを可視化できます。
◆特徴② 水質センサをIoT化
 MizLinx Monitorは、溶存酸素、塩分、水温、濁度、クロロフィルなどの各種水質センサの搭載に対応しており、データはすべて自動でクラウドに送信されます。センサの種類や構成は導入地域や目的に応じて柔軟にカスタマイズが可能です。これにより、へい死の予防や、暗黙知の形式知化などへの活用が期待されます。
◆特徴③ 最適化されたWebアプリ
 データの可視化には、MizLinxが独自に開発したWebアプリ(図3)を用います。シンプルで直感的なダッシュボードにより、映像とセンサデータを同時に閲覧することができます。PCはもちろん、スマートフォンやタブレットからもアクセスでき、現場作業中や遠隔地からでも状況確認やデータ分析を行うことができます。

図3 Webアプリ画面

2.3 活用事例

◆事例① 魚の給餌効率化
 養殖魚の動きやお腹の膨れ具合を映像から判定し、満腹度に応じて給餌量を調整することで、餌の無駄を抑え、コスト削減と環境負荷の低減に貢献しています。従来は経験に基づいて判断されていた給餌のタイミングや量を、データに基づいて管理できるようになりました。
◆事例② 磯焼けの原因である「食害」の瞬間を撮影
 長崎県五島市にて、海藻が失われる磯焼けの原因の一つとされる、ガンガゼや魚類の食害の瞬間を撮影することに成功しました(図4)。これにより、食害の発生時刻や対象となる生物の種類を特定し、対策の検討に活用することができました。

図4 食害の様子(MizLinx Monitorで撮影)

◆事例③ ガンガゼ生息域ヒートマップの作成
 ハンディタイプを用いた調査により、ガンガゼの分布をAIで解析しています。調査結果はヒートマップとして可視化され、駆除の優先エリアの選定や経年変化の把握に役立ちます。

3. 今後の展望

3.1 次世代ロボットの開発

 MizLinxでは現在、さらなる水中観測の高度化を目指し、自律型水中ロボット( A U V :Autonomous Underwater Vehicle)の開発を進めています。これまでのブイタイプやハンディタイプと異なり、AUVは海中を自由に移動しながら、広範囲かつ詳細な観測を行うことが可能です。将来的には洋上風力や海運、海底資源開発など、さまざまな分野における海中インフラ点検や環境モニタリングへの応用が期待されています。

3.2 海外展開

国内での実績を踏まえ、東南アジアをはじめとする海外展開にも取り組んでいます。2023年にはフィリピンの展示会に参加し、現地の養殖業に関するニーズを直接ヒアリングしました。また、水産系研究者や事業者との意見交換を通じて技術導入の可能性を探り、養殖大手との連携に向けた交渉も始まっています(図5)。今後は、地域特有の課題に寄り添いながら、持続可能な水産業の実現に貢献していきたいと考えています。

図5 フィリピンの水産系研究者の方々と