岩手県の水産増養殖について

岩手県水産技術センター 山 口 正 希

1. はじめに

図1 岩手県水産技術センター

 岩手県水産技術センターは、平成6年に釜石市平田に庁舎(図1)を移転・開所して業務を開始しました。開所時は、総務部、企画指導部、漁業資源部、利用加工部、増養殖部、種苗開発部、漁場保全部、さけます研究室の7部1室制でしたが、現在は、種苗開発部とさけます研究室は統合され、5部制で岩手県の水産業振興や水産物付加価値向上などに取組んでいます。また、意欲ある次世代の経営体の育成などを組織の役割として、漁場環境から生産、加工、流通、消費に至るまでの一貫した調査研究と普及指導にも取組み、海洋環境の変化に対応した漁業及び水産流通・加工業の発展を支援しています。今回は、増養殖部が担当する岩手県の採介藻漁業、養殖業について紹介します。

2. 採介藻漁業

 岩手県沿岸は、総海岸線が674kmあり、中央に位置する宮古市を境に、北部は断崖絶壁の海岸段丘、南部は湾で構成されたリアス海岸ですが、北から南までほぼ岩礁域であり、岩礁域には、漁業対象種のエゾアワビやキタムラサキウニが生息し、沿岸全域でアワビやウニを対象とした採介藻漁業が行われています。令和5年時点において、アワビ類、ウニ類の都道府県別漁獲割合は、岩手県は、アワビで全国1位、ウニで全国2位となっており、両種とも重要な漁獲対象種となります。

2.1 アワビ漁業

図2 岩手県におけるアワビ漁獲量・漁獲金額

 日本国内では、クロアワビやトコブシなど10種類が漁業に利用されていますが、岩手県ではエゾアワビのみが生息し漁獲されています。アワビ漁業は、11月から12月が漁期となっており、主に小型漁船によるカギ採りで採捕されます。漁獲量(図2)は、平成では、300~400トンで推移していましたが、令和では100~200トンとなり、長期的に漁獲量が減少傾向にあります。漁獲量の減少は、様々な要因によるものと推測されますが、その要因の一つとして、平成23年3月11日に発生した東日本大震災の津波によりアワビ稚貝が流出したことが挙げられます。稚貝の流出により、漁獲対象サイズとなる平成29年以降の漁獲量は減少傾向が確認されました。このため、岩手県では、アワビを増やす、守るための資源管理に取組んでおり、岩手県栽培漁業協会や漁協の施設においてアワビ種苗を生産し、県内の漁場へ放流する活動を行っています。また、県の漁業調整規則により漁獲サイズを定め、漁期と併せて漁業者自ら資源保護に取り組んでいるほか、取締機関や漁協等が協力して密漁対策にも取組んでいるところです。

2.2 ウニ漁業

 岩手県沿岸ではキタムラサキウニとエゾバフンウニが漁業に利用されています。そのうち、キタムラサキウニは漁獲の9割を占めています。ウニ漁業の漁期は4月から8月までと長く、漁法はアワビと同じ小型漁船によるタモ採り、カギ採りが主流であり、漁獲量は、アワビと同様に減少傾向を示し、近年は殻付重量換算1,000トン前後で推移しています。漁獲されたキタムラサキウニは、殻付ではなく主に剥き身として流通しており、その身の柔らかさから、板に並べるのではなく、牛乳瓶等の容器に海水と一緒に詰めたものを販売するのが一般的です。最近は、流通網の発達と、牛乳瓶での販売の認知度向上により価格は上昇傾向にあります。

2.3 磯焼け

図3 磯焼け

 岩手県でも磯焼けが深刻な状況(図3)にあり、その要因は増えすぎたウニにあります。岩手県沿岸では冬から春にワカメ、コンブ等の海藻類の芽が出る時期となりますが、この時期の海水温が6℃以上で推移すると、ウニの摂餌活動が活発となり、海藻の芽が食べられることで繫茂せず磯焼けになることが分かっています。近年は、海洋環境の変化により、冬期水温が例年よりも高めに推移することが多く、ウニの摂餌活動が活発となり海藻が繁茂しない漁場も確認されるようになりました。また、夏期の高水温化によりコンブ等の母藻が枯死流出し、その後の再生産が難しく、そこにキタムラサキウニが増えたことも重なり、漁場環境は絶えず餌不足となっています。その結果、成長不良による痩せアワビの増加や、ウニの身色不良などの品質低下が起き、漁業生産活動に大きな影響がでています。このことから、岩手県では漁協などと連携し藻場造成に取り組んでいるほか、増えすぎたウニを有効利用するため、漁港等を活用したウニの養殖・蓄養の試験にも取り組んでいます。

3. 養殖漁業について

図4 岩手県魚種別養殖生産量(R5)

 岩手県では、県北部の一部を除き広範囲で養殖漁業が行われています。1.採介藻漁業でも説明したとおり、宮古市を境に、北部は湾のない外洋系の漁場であり、波あたりや潮流が強くても可能な海藻類養殖が主に行われています。南部は入り組んだ湾と外洋系の漁場で構成され、湾内の静穏域では貝類養殖、外洋域では海藻類養殖が行われています。養殖漁業で生産される主な種類は、海藻類養殖では、ワカメとコンブであり、貝類(介類)では主にマガキ、ホタテガイ、ホヤとなります。生産量(図4)は、北から南まで広範囲に養殖されている海藻類養殖のワカメ、コンブが多く、この2種で養殖量全体の7割を占めます。一方、貝類養殖は、近年の高水温の影響により、冷水性のホタテガイなどはへい死が多く厳しい状況となっています。ここでは、最も生産量の多いワカメ養殖について、詳しく紹介します。

3.1 ワカメ養殖漁業

図5 ワカメ養殖操業サイクル

 ワカメ養殖は北海道から九州まで広く行われていますが、生産量は、岩手県と宮城県の三陸沿岸で7割を占めており、平成までは岩手県が全国1位でしたが、令和以降は宮城県が1位となっています。現在の手法による養殖は、およそ60年前に三陸沿岸で始まり、岩手県では、県北部の野田村から県南部の陸前高田市で行われています。ワカメ養殖は延縄式の施設で、操業サイクル(図5)は1年とほかの貝類養殖よりも短く、小規模な個人経営体も取組みやすいのが特徴ですが、機械化は進んでおらず、かつ重労働であり、生産者の高齢化により規模縮小や廃業が進み、生産量減少の大きな要因(図6)となっています。平成23年3月11日の東日本大震災の津波によりワカメ養殖も大きな被害を受け、その年の生産はほぼありませんでしたが、関係者一丸となって施設復旧を進め、翌年の平成24年から生産を再開させました。生産量は、震災前は2万5千トン前後で推移していましたが、震災後は生産者の減少もあり1万3千トン前後で推移しています。さらに近年は海洋環境の変化により海水温が上昇し、種苗の芽落ち(脱落)や生育期間の短縮などの問題が生じており、当センターでは、人工種苗生産技術の改良に取組み、通常の種苗と比べ大型の種苗を開発するなど、生産量を増やす研究を行っており、今後もワカメ、コンブの生産量を維持するための優良品種育成等の研究に取組みます。

図6 ワカメ養殖の現状と課題